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覚悟の時

 突如、なつは身動きのとれない状況に追い込まれていた。宮部に肩をガッシリの掴まれたのだ。

「?!!!…っ!!!!」

 宮部はなつを押し倒し、激しく口付けをしてきた。宮部の目は本気だ。標的を見つけた獣の目。あの時の芹沢のような―

 宮部は乱暴になつの帯を解き、着物の中へ手を入れる。

「宮部はんっ…やめっ……」

 身の危険を感じ、逃げ出そうとするものの、宮部から逃れる事は出来ない。

「牡丹、嫌がる必要がどこにある…?俺はお前を身請けしてやるんだ。これくらい当然だ。」

 宮部は笑っている。捕えた獲物がもがき苦しむのを見て、楽しむような目。宮部の熱いものがなつの中に入ってくる。

「!!!!!!っっつ…!!!」

 痛みに顔を歪ませた。

「牡丹…お前が知りたい事を教えてやるよ…」

 宮部は激しく腰を打ちつけながら言った。

「祇園祭の風の強い夜、御所の風上より火を放ち、混乱に乗じて帝を長州へお連れするのだ。駆け付けた京都守護職松平容保と幕府寄りの公卿は、その時暗殺。どうだ、素晴らしい考えだろう。もうすぐ歴史が動くぞ。俺らの時代が来るんだ。」

 なつの中で時間が止まった。御所に火を放ち、帝は長州に連れ去られる。容保候と公卿様は暗殺。許される事じゃない。

 なつはただ宮部を下から眺めていた。痛みも何も感じない。されるがまま。そんな天神牡丹に己の快楽を投げつけ、宮部は悠々と店を後にした。


「牡丹姉はん?!」

 宮部が帰ってしばらく経つのに一向に呼ばれない蓮華は、心配になり牡丹の様子を見に来たのだ。なつは乱れた髪にはだけた着物姿で放心状態であった。

「牡丹姉はん?!しっかりしてっ!」

 小さな身体でなつを抱きしめ、必死に声をかけている。その声にようやく気付いた。

「…れ…んげ…?」

「牡丹姉はん?!どないしはったんどすか?!牡丹姉はん、宮部はんが帰らはってもうちの事呼ばはらへんし、心配になって…」

 蓮華は目に涙を溜めて一生懸命話している。

「…蓮華…呼ばへんで悪かったなぁ…うちは大丈夫や…蓮華…女将さん呼んで来てくれるか…?」

 宮部から聞いた話は、すぐに新選組に報告しなくてはならない。天神の仕事を一段落させたかったのだ。

「分かった。ご苦労はんどしたなぁ。実は今まで黙ってたんやけど、うち知ってるんや。あんたが新選組の密偵やって事。」

「…え…?」

「土方はんにお願いされたんや。本気でやってもらわなあかん仕事やから黙っててくれって。何かとんでもない事を聞いてしまったんやろ?京の町を護るんが新選組の勤めや。はよ行き…」

「女将さん、おおきに…」

 なつは着替え、新選組の屯所へ急いだ。


「何だって?!」

「あいつらそんな事考えてたのかっ!」

早急に屯所に帰って来たなつ。荷物も置かずに近藤、土方、山南に伝えに来たのだ。

「もしかすると…古高と宮部は繋がってるかもしれませんね…」

「…よし、古高を捕まえる。なつ、四条小橋だったな?」

「……………………」

「なつ!聞いてんのか?!」

 宮部に聞いた事は至急、伝えなければならない事だった。しかし、伝え終えた後、宮部に無理矢理抱かれた記憶が鮮明に脳裏に浮かんできてしまったのだ。なつの体は小刻みに震えている。

「……なつ…?」

「…………ぃゃ……」

「…なつ…?どうした?」

「……イヤァァァ―――!!!!!」

 なつは頭を抱え、叫び出した。悲鳴、まさにそれだった。感じなかった痛みの全てが、今となってなつの体に襲いかかる。

「なっちゃんっ!!!」

 山南にはなつの怯えているものが何なのか分かる気がした。あの時のなつの覚悟を聞いていたから。なつを強く抱きしめると、まるで小さな子をあやすかのように、背中を摩り、なつが眠ってしまうまでずっとそうしていた。

「どういう事だ?山南さん。」

「おそらくだが…なっちゃんは宮部に無理矢理抱かれたんじゃないかな?」

 店でたまたまなつに会った事、なつは身体を売る覚悟で情報を得るつもりだった事を話した。

「なつ…何故そこまでして…」

「新選組のためにだろ。自分が新選組にいる意味を持ち帰りたかったんじゃないか?」

「あまりにも代償が大き過ぎる……っ…」

 近藤は後悔をしていた。なつにこの仕事を頼んでしまった事を。

「近藤さん、私達が今、やらなくてはならないのは悔やむ事ではありません。なっちゃんが身を犠牲にして得て来た情報です。確実に長州の策略を阻止するのです。」

 近藤はその意見に納得し、翌日、古高確保に向かわせた。


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