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女の決意

 今日のなつはある決意があった。自分の予約に古高が入っていたのだ。このまま、ただ座敷にいるだけでは意味がない。新選組のため、何より自分が与えられた仕事を全うするため、必ず情報を聞き出すと。

「ようこそ…天神牡丹でございます……古高はん…?」

「…牡丹…?////」

 なつは襖を閉めると古高に抱きついた。突然抱きつかれ、驚く古高。しかしその表情には嬉しさが隠せないでいた。

「古高はん…会いとおしたえ…うち、毎日古高はんの事が頭から離れへんのや…////」

「…牡丹////俺も会いたかったよ。でも最近、仕事が忙しくてな…なかなか来れなくて悪かったな。」

 古高は天神牡丹を抱きしめながら、にやけて堪らない顔を我慢しながら言った。

「お仕事なら仕方おへんなぁ。古高はん、道具屋はそんなに忙しいお仕事なんどすか…?」

 今日こそはという気迫のなつはとても積極的だった。

「俺はな、牡丹。道具屋というのは表向きなんだよ。」

「…表向き……?」

 古高が喋り出した。

「俺は訳あって長州の奴らに武器の仕入れを任されてるんだ。」

「武器の仕入れたやなんて物騒やわ。武器を仕入れてどうしはんのん…?」

「…それは…お前は知らなくて良いんだよ。そんな汚い世界を知る必要はない…。」

 古高は本当に天神牡丹を思いそう言ったのだろう。その表情はとても優しく笑っていた。

「うちは古高はんが心配なんや…」

 悲しそうに下を向く天神牡丹を古高は愛おしそうに見ていた。下を向いた天神牡丹の表情が笑みに変わったのを知らずに。


古高の一件は、すぐに新選組に伝えられた。しかしまだ、長州の意図が分からない。なつには探索を続行するように命が下った。無論、このままで帰るつもりは無かったが。

「牡丹姉はん?次は宮部はんですえ。牡丹姉はん、宮部はんお気に入りなんやろ?」

 蓮華は牡丹の着付けの手伝いをしながら言った。

「いややわぁ。蓮華は何でもお見通しなんやねぇ。大事なお客はんやさかい、今日は入らんといてね。」

「分かっております!終わりはったら呼んで下さいね!」

 蓮華は無邪気な笑顔で出て行った。


 宮部鼎三

 古高のようにはいかないだろう。今日こそ、その時が来てしまうかもしれない…。

「ようこそ。天神牡丹でございます。」

 そこにはいつもと変わらぬ、無表情の何を考えているか分からない男の姿があった。横に座り、しな垂れかかるようにしながら酒を注ぐ。

「宮部はん…会いとおしたえ…」

「お前、誰にでもそうしてるのか?」

 やはり、古高と同じようにはいかないようだ。

「そんなことおへん。うちがお慕い申してるんは、宮部はんだけや…」

「…そうか……」

 そう一言呟くと、何を考えているか分からない表情で盃を傾け続けた。誰かに似ている、そう思っていたがある人物と重なった。その人物とは『芹沢鴨』だった。


「牡丹…お前は何故この仕事をしておる?」

ずっと黙っていた宮部が呟いた。

「生きるためや…うちはこれをしてかな生きてかれへんのや…」

「身体を売ってでも生きたいか…?」

「…生きたい……」

 自分はいつの間に、こんな嘘を真剣に言えるようになってしまったのだろう。自らを偽り、天神という名の密偵をしている。嘘だらけの人間だ…。そう自己嫌悪をに陥りそうだったその時、ついにやってきたのだ。この時が。

「牡丹…お前を身請けしてやる。ただ、もう少し待ってくれ。俺にはやらなくてはならない事がある。」

「宮部はん、なんどすの?やらなあかん事って。理由を聞かな、うち待ってられへん…」

「心配するな、必ず迎えに来る。」

「いややっ!!宮部はん、教えて?何をするつもりなん?」

 なつは宮部に抱きつき涙声になりながら言った。これでもう宮部は吐く。

 そう思っていた……―――


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