会えない時間
新選組屯所では―――
「ねぇ〜土方さん…コホッコホッ…まだなつからの沙汰はないんですか?」
なつが島原へ行って二週間。以前は五日ほどで情報を掴む事が出来たのだが、今回はまだ確実な証拠を掴めないでいた。
「どうやら苦戦してるみたいだな…それより総司、お前本当に大丈夫なのか?」
「私の事は大丈夫ですよ…それより、なつのとこに行って「駄目だ。」
「何でですかー!?」
間髪入れずに否定され、総司は膨れる。
「行くなとは言わねぇ。でも、なつからの沙汰があってからにしろ。」
「…………分かりましたよ。」
なつから何も沙汰がなく、毎日を過ごしている総司にはそれが一ヶ月にも二ヶ月にも感じていた。
なつに会いたい
なつに抱きしめたい
なつを抱きたい
その気持ちばかり大きくなって、正直、仕事にも身が入らないでいた。
なつも気持ちは同じであった。古高と宮部、この二人が鍵を握っているのは分かっている。古高は頻繁に来てくれる。しかし、話を聞こうとすると帰ってしまったり、ごまかされたり…。
宮部もなんだかんだ来てくれる。でも、なつが色目を使っても無視されたりでどうもうまくいかない。
時間ばかりが過ぎて、肝心の情報を聞き出せないでいた。焦りだけがなつの中に溜まっていく。もう言葉や軽く触れる程度では無理なのだろうか。そう思った時に総司の顔が浮かび、一歩を踏み出せないでいた。
総司に会いたい
総司に抱きしめられたい
総司に抱かれたい
毎日、その思いに押し潰されそうになっていた。
「牡丹〜今、明里の馴染みの方が来たはるんやけど、すぐに出られへんのよ。あんたちょっとお相手してくれへん?」
「分かりました。女将さん、お名前は……」
「おいでやす〜!」
なつの質問にも答えずに、菊は去ってしまった。仕方ないので言われたとおり、その座敷に向かった。
「ようこそ…お越し下さいました…天神牡丹で―――」
深々と下げた頭を上げると、そこには………
「………………………」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした山南の姿があった。
「山南さん!!」
「なっちゃん?!君はここの天神をしていたのか!明里が言っていた天神というのは君の事だったのか!」
なつに間を与えないように話し続ける山南。なつの方が呆気にとられてしまった。
「あ…あの…山南さん…」
「あぁ!ごめん!あまりにびっくりしたもんだから。」
「総司は…」
山南は今までの驚き顔から、いつもの穏やかな笑顔になった。
「沖田くん、最近腑抜けなんだよ。よっぽど寂しいみたい。何か元気付けられるような事、言付かろうか?」
「じゃあ…早く片がつくように頑張る。だから帰ったら…私の穢を落としてね……って伝えて下さい。」
山南は悲しい表情を浮かべ、目をつぶり、小さく頷いた。