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疑惑(後編)

「土方さん、沖田です。」

総司は近藤となつを自室に残し、ひとり土方の部屋へ来た。

「…入れ。」

 二人は向かい合う訳でもなく、土方は机に向かい、総司は柱にもたれ掛かりながら話し出した。

「………土方さん…」

「……何だ…」

「土方さんは…私の敵ですか?味方ですか?」

 突拍子もない総司からの質問に、驚いて総司を見る。

「…それは…どういう意味でだ…?」

「どういう意味かは土方さんの理解した方で答えてください。」

 訳の分からない言い方をする総司に首を傾げながら考えた。

「味方だ…」

「味方か…」

総司はハハハっと笑いながら言った。

「分かりました。今回の事は忘れてあげます。」

 土方には何が何だかさっぱり分からない様子だったが、とりあえず許して貰えた事にホッとした。

「悪かった…。でも、俺がもし、敵だって言ったらどうしてた?」

「そうだなぁ…。土方さん…「俺を斬るつもりだったか………」

自分のやった事は総司をそこまで追い詰める事だったのかと、総司の返答を聞き終える前に口を挟んだ。しかし、総司から出てきた言葉は意外なものだった。

「『豊玉発句集』を隊士全員に配るつもりでした。」

「……………………………………総司…………何故………お前が…それを………」

『豊玉発句集』とは土方が作った句の詩集のようなものだ。

「私だけじゃないですよ?なつと二人で遊びに来てる時に見つけちゃったんです。」

 何でもないかのように言う総司。しかし土方からするととんでもない事だった。

「てめぇぇぇ!!人がいない間に人の物あさってたのかぁぁぁぁ!!!!」

 土方の怒りの声が屯所中を響かせた。

「良いんですか?私にそんなに怒って。別に良いですよ。皆に配るだけだから…。」

 ニッコリと笑う総司。これが総司なりの仕返し。でもここで土方も負けてられない。

「お前も言うようになったなぁ………せっかくなつの敏感なとこ教えてやろうと思ったけど、やっぱやめた。」

 総司がピクリと動いた。

「土方さんっ!!!教えて下さいっ!!!!!」

 土方はニタリと笑った。

「いいか?総司、あいつの弱いとこは首だ。耳から首にかけて下がってくるんだよ。」

総司は前のめりになって土方の話を聞く。

「軽い口付けなんて甘い。舌を這わせるんだ。あいつはそれで感じる。…まぁ俺はあいつの感じてる声と顔にやられて我慢出来なくなったんだけどな!」

 笑いながら言う土方にイラッときた総司。土方が隠している『豊玉発句集』を手に取った。

「さーて、皆に配ってこよ。」

「ちょっと待て!俺が悪かった!だから返してくれーーーー!」

 またもや屯所中に土方の声が響いた。

 とりあえず、総司と土方の内戦はこうして幕を閉じたのである。


「はぁぁぁぁーー…」

一日の仕事を終え、縁側に腰掛けたなつ。何だか今日はとても疲れる一日だった。土方には抱かれそうになるし、総司と土方の仲裁をしようとして突き飛ばされるし、そんな一件で夕食準備にバタバタするし。

 疲れた身体に鞭打ってのろのろと自室の襖を開けると……。

「……………………………………何してんの?総司…」

 自分が寝るはずの布団に総司がいたのだ。

「一緒に寝ようと思って。」

 ニコニコと笑いながら言う総司。全く悪びれた様子がない。まぁ一緒に寝る事ぐらいよくある事で、お互い抱き合って寝るくらいだ。それなら良いだろうと明かりを消した。しかし、今日の総司はただなつと一緒に寝る事が目的では無かった。昼間土方に言われたなつの弱い所を確認しに来たのだ。

 そんな事とは知らず、いつものように、なつは横になり、総司の腰に手を回す。

「総司…おやすみ……」

 なつの耳に息がかかった。

「?!?!?!?!」

なつが顔を上げるとニタリと笑った総司の顔があった。

「…ちょっと……何…?」

「なつ…土方さんを本気にさせるなんてどんな顔見せたの?私にもその顔見せてよ。」

 総司は自分の愛しい人の身体を他の男に触られ、そのまま寝るなんて嫌だったのだ。

「なつの(ケガレ)を落としてあげるよ。」

ニコニコと笑う総司。なつは抵抗をやめ、総司に身体を任せた。

総司はなつに口付けをした。初めは唇を合わせるように。だんだんと速度を早め、角度を変えて何度も口を重ねる。唇に舌を這わせ、相手の舌と絡ませた。

 総司は土方に言われたように耳に口付けをし、舌を這わせるように首筋をなぞった。なつの身体が波打った。

「…あ……////」

 なつから出る感じている声に総司も反応し始めた。

総司の舌の動きと共になつからも妖艶な声が洩れる。なつのその顔を見た瞬間、総司の理性は吹っ飛んだ。色っぽいなんてそんな言葉では表せないほど、艶やかで、感じているその顔が、色気そのものだった。

 帯を解き、着物の中に手を入れる。着物の裾から足を絡ませる。総司の舌が這う度に波打つなつの身体。総司も限界だった。

 ゆっくりとなつの中に訪れた総司は、温かさに幸せを感じていた。なつもまた、総司と繋がった喜びと中から沸き上がる快楽の渦にのまれていた。

「…なつ…?」

「////何…?」

「…幸せ…?////」

「//////すごく…」

 愛する者に愛される幸せ。芹沢とお梅もこの幸せを感じていたんだと、なつは初めて芹沢とお梅に共感できた気がした。


   あの二人は…幸せだったんだ……―――


 愛される人の胸に抱かれながら、幸せを感じながら、なつは眠りについた。


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