疑惑(中編)
土方はなつに疑いの目を向けながら徐々になつに近づいていった。
「そうか…こんなことはされなかったのか…?」
そう言うと土方はなつの耳にふっと息をかけた。
「ひゃあっっっ////」
なつの反応が面白かったのか、今度は甘噛みしてきた。
「いやっ…////」
調子に乗る土方。女の扱いには慣れているので、どこが弱いかしっかりと心得ているのだ。耳から段々と首筋にかけて口付けをし、舌を這わせる。
「やめてっ…ん…////」
おもわず声が出たなつを見ると、土方の口付けに感じ、今までにない色気を放ったなつがいた。
あ…やばい…
土方が反応した。
い…今ならまだ間に合うっ////
しかし、なつから放たれる色気は尋常じゃなく、土方が止められる物ではなかった。
あ…無理だ……
「…土…方さん…やめ…て…////」
感じた顔でそんな事を言っても土方の興奮をあおるだけだった。土方は嫌がるなつに強引に口付けた。
「ンンッ…////」
なつの逃げるような仕草に土方は執拗に迫る。なつを押し倒し、身動きの取れない状態にさせてから、着物の中にスルリと手を忍び込ませる。口付けは激しさを増し、土方は舌を絡ませた。
「…土方…さん……もうやめ…」
なつは涙目になりながら、必死に土方から逃げようとするが、乗りかかられているため身動きが取れず、土方のされるがままだった。
「ひーじかーたさぁーーーん!」
襖が勢いよくと開いた。
土方に暇を潰して貰おうと思い、将棋を持ってきた総司。今、総司の目に映るのは、兄と慕う人が自分の恋仲の相手を襲っている姿だった。
ガシャーンと持っていた将棋を落とした。
「……そ…総司…」
涙目になりながら手を伸ばし、助けを求めるなつ。総司は土方の着物の襟元を掴み、殴り飛ばした。土方は襖と一緒に庭に転がる。自分が悪いと思いながらも殴られた事に腹を立て、殴り返した。
総司の尋常じゃない怒りに、危険を感じたなつは仲裁に入る。しかし、二人の激しい取っ組み合いに突き飛ばされてしまった。そこへ駆け付けてきた近藤、永倉、左之助。そして現在に至る。
二人を一緒にさせておくと、いつまた殴り合うか分からないため、とりあえず、別々の部屋で話を聞く事になった。
「歳…お前はいったい何をしているんだ!女を抱きたきゃそれなりの所があるだろう。」
近藤は呆れて溜め息をつきながら言った。
「…いてっ!!!」
「す…すみません…」
総司に殴られた傷の手当てをする平助。どうも平助は貧乏くじを引いてしまうらしい。
「とりあえず、何でなつにあんなことしたんだ!」
自分の幼なじみの女癖の悪さは重々承知してたつもりだが、まさか昔から共に暮らしてきた、妹のような存在のなつを襲うとは思ってもいなかったのだ。
「初めはちょっとからかってやるつもりだったんだよ。だけど、あまりにあいつが色っぽい顔するから…男だったら俺の行動は普通だ!!」
「からかう事自体が普通の行動じゃない!!はぁ…もう良い。反論する気にもなれない…。お前、総司にはちゃんと謝れよ。それと!なつにもな。」
近藤はそう言い捨て、総司の元へと向かった。
あ…近藤さん…私を置いて行かないでぇ〜〜〜!!
平助の心の叫びは近藤へは届かず、土方の方をちらっと見る。
「何見てんだよ!」
「…すみません……」
どこまでも貧乏くじを引く平助なのであった。
総司の部屋では、なつが総司の傷の手当てをしていた。
「…総司……ごめんなさい…」
必死に抵抗しようとしたものの、土方に感じてしまったのは事実。その意味も込めて、総司に謝罪した。
「なつが悪い事じゃない。」
なつの本意を知ってか知らずか、なつを責める事はしなかった。
「総司…大丈夫か…?」
ゆっくりと襖を開け、近藤が入ってきた。
「大丈夫ですよ。それより土方さんは…」
「あいつも悪気があった訳じゃないんだ。ただ馬鹿なだけで…」
土方には見放すように言っておきながら、総司には土方を庇う言い方をした。
「なつからだいたいの話は聞きました。久坂の事は仕方ありません。それもなつの仕事だったと思えば諦めもつきます。」
総司、大人になったな…とふと思う近藤であった。
「でも土方さんは…土方さんは私となつを応援してくれてると思ってたんです。なつのいる店を教えてくれたのも土方さんですし…」
総司には土方の行動が理解出来ないのであろう。応援してくれたり、裏切ったり、どちらが本来の土方なのか分からなくなっていた。
「とにかくお前らが仲違いしてもらってちゃ困るんだ。総司、大人になってくれないか?」
「………分かりました。土方さんと二人で話をさせてください。」
「あぁ分かった。」
「…近藤さん……」
心配そうに近藤を見つめるなつ。大丈夫だと言うように頷いた。