疑惑(前編)
この『疑惑』は史実には全く関係のないお話です。
全3部作となっております。
「土方さん!貴方は裏切り者だっ!」
「お前が餓鬼なんだよっ!」
「まぁ待て!話せば分かる事かもしれん!落ち着け!二人とも!」
「土方さんっあんたどこにそんな力がっ…!」
「大丈夫か?なつ。」
「はぁ…何とか……」
それは突然、総司と土方の取っ組み合いの喧嘩が始まったのだ。物凄い破壊音と供に、襖と土方が庭へ投げ出された。それにキレた土方も負けじと総司を投げ飛ばす。仲裁しようとしたなつは、二人に弾かれ庭の木にぶつかった。
そこへ物音を聞き付けて、なんだなんだとやってきた近藤、永倉、左之助。近藤は総司を、左之助は土方の腕を羽交い締めにし、暴れる二人を制止しようとしている。
木にぶつかったなつに怪我が無いか確認している永倉。
事の初めは昼下がりだった。
なつと総司は芹沢とお梅の墓のある壬生寺へ来ていた。二人の最後の顔を見る事も出来ず、今生の別れとなってしまったなつ。せめてお墓の前で、『ありがとう』と伝えたかったのだ。花を生け、線香に火を灯し、ゆっくり目を閉じて手を合わせる。
「帰ろうか?」
総司はなつの手を取り、屯所へ戻った。そこには今、出掛けようとする山南の姿があった。
「二人で散歩かい?そういえば土方くんがなっちゃんを探してたよ。何やら聞きたい事があるとかで…」
「土方さんがですか?!何だろ…なんか悪い事でもしたかな。山南さん、どこ行くんですか?」
「あ…ちょっとね…///」
山南は顔をほんのり赤く染めた。
「女ですか?」
総司は悪戯っぽく言った。
「はは…////まぁそんなとこだよ/////」
足取り軽く出ていく山南を微笑ましく見送った。
「山南さんにもそういう人いたんだ。あ…土方さん、何の用事だろ。」
怒られるかもしれないという思いがあり、土方の元へ行くのは気が進まない。しかし探していたと知った以上、放っておくのも気にかかる。仕方なく、土方の部屋へ向かった。
なつが土方の部屋へ行くと、書類の山に囲まれた土方がいた。
「土方さん?私を探してたって山南さんに聞いたんですけど…私、なんかやらかしました?」
恐る恐る土方に声をかける。勢いよく振り返る土方に殴られる気がしておもわず目をつぶり、肩を竦めた。
来るはずの痛みが来ない。ゆっくり目を開け土方を見ると……いやらしく笑う土方の顔が間近にあった。
「…な…何ですか…?」
土方から離れるように後ろに下がる。
「なぁ…久坂に何された?」
土方は気になって仕方がなかったのだ。あまり人を信用しないという久坂に重要機密を喋らせたなつ。なつがどうやって久坂を信用させたのかが土方の興味の対象だった。
「……だからっ…惚れられただけですよ。」
「俺は結果を聞いてるんじゃねぇ。経過を聞いてるんだ。」
「…け…経過と言われたって…初めて会った段階で気に入ったって言われただけですけど。」
「でも気に入っただけで重要機密は喋らねぇだろ。どうやって久坂を落としたんだよ。総司には秘密にしといてやるから言えよ。」
土方は圧力のある目付き、口調で言う。こうなったらもうどうあがいたって逃げられない。
「初めて会った時から好意を抱いてくれたみたいなので、ちょっと鎌かけてみました。」
「どうやって?」
「今度は一人で来て下さいって…そしたら次の日から毎日来てくれて…」
なかなかやるな、こいつと思いながら、土方は相変わらずニヤニヤした表情でなつの話を聞いた。
「しばらくしてから聞いたんです。久坂さんは京で何をやっているのかと…そしたら……」
「そしたら?」
「…く…口…付け…をされました…」
「ほぉ〜それから?」
「それで終わりです。口付けされた後に話してくれました。」
なつには土方からの疑いの目が向けられていた。