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芹沢鴨死す

「…ん……。」

朝日が眩しい。目を細めながら、自分のいる場所を確認する。所々にシミのある、見慣れた天井。

「…目、覚めた?」

声のする方を見るといつもと変わらない笑顔の総司。

「良かった…けっこう血が出てたんだ。顔色も悪かったけど、今はもう大丈夫だね。」

そう言うと、背中を抱えて起こしてくれた。

「総司…私は……」

「近藤さんから話は聞いた。無茶するよ、まったく。あの時意識が無くなってから、昨日は一日ずっと寝てたんだ。」

 なつは約一日半寝ていた事になる。

「総司…芹沢さんとお梅さんは…?」

 総司は後ろめたさもあるのだろうか、目を逸らしながらポツリポツリと話し始めた。


きつくなる雨音は、これから起こる惨事の音を消してくれる有効な後ろ盾だった。長州藩の賊の仕業だと発表するこの事件。必ず芹沢を討ち取り、近藤を新選組の柱にするのだと。

足音を消すように四人はそろりと八木邸の庭先から侵入する。向って左側の部屋に芹沢はいる。そしてその奥に平間がいるはずだ。平山はそのまた奥に。

土方は障子に手をかけると他の三人に目を配らせた。そして頷く。そろりと襖を開けた。きらりと煌めく銀色の光が眼に飛び込んできた。その光の持ち主はゆらりと立ち上がる。

「さぁ、始めようか。まともに相手するのは初めてだな。」

芹沢の重く圧し掛かるような声色に、背筋に冷たい汗が流れる。

総司と土方が立ち向かう。山南と左乃助は刃先を芹沢に向けながら平間と平山の方へ移動していく。

「流石だな。既に担当は決まっているということか。これなら新選組をお前に任せられるぜ。土方…」

余裕に構えた芹沢は悠々と言葉をつなげる。まるで時間稼ぎをしているように。間もなく玄関がバタバタとざわめいている音が耳に入ってきた。それを合図にするかのように芹沢が総司に斬りかかる。煌めく光は閃光の如く襲いかかる。総司は受け止めつつも芹沢の射抜くような眼力に威圧されているのを感じた。これが芹沢鴨という人物の大きさなのだと。

土方が芹沢の脇を狙い、突きを放つ。それを鉄扇ではじき返すとくるりと翻った。元の構えに戻ったがそこに対峙しているのは総司と土方だけではない。山南と左乃助も刃先を芹沢に向けていた。

「もう逃げられねぇだろ…」

土方の低い声が響く。

「俺は逃げも隠れもしない。かかってこい。」

芹沢の肝の大きさを実感していた。

芹沢に振り落とされる刃。何本かはじき返されるが、四対一では軍配は目に見えている。低く呻くような声をあげると芹沢の体は廊下に流れ込んだ。その後を追う総司。芹沢が振り上げた刀は運悪く、鴨居に刺さってしまった。そして八木家三男の為三郎の使用している文机に足をとられ、芹沢の巨体はドォンと音を立て倒れた。すかさず総司は心臓を一突きにした。

肉に刺さる感触に手が震える。人の命を奪うということ。その事実の重たさに、総司は体の中から沸き起こる動悸に肩を上下させた。

「総司…行くぞ。」

土方の声に我に返った。



「……そう…」

 総司から語られた芹沢暗殺の状況を聞き、なつは一言だけ返事した。それ以上何も聞かない。おそらく総司はこれ以上は語りたくないはず。そしてこの事実は闇に葬られるのだとなつも心の何処かで納得していた。

新選組に生きる場所を選んだ以上、これを蒸し返してはならない。なつは目を瞑り、芹沢・お梅・平山に黙祷を捧げた。

 芹沢一派の葬儀は暗殺の翌日に盛大に行われた。届け出には、不逞浪士による殺害と書いた。芹沢らの遺体は、壬生寺に埋葬された。こうして、芹沢暗殺の幕は閉じたのである。


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