新見の切腹
島原のとある店を訪れた土方と山南。
「山南さん、覚悟はいいか?」
土方は、店の前で山南に聞く。
「覚悟が無ければ来ていませんよ。さぁ行きましょう。」
普段、温厚な山南の気迫に若干押されぎみの土方。しかし、土方も意を決して店の中へ入った。
「これはこれは、新選組の副長が二人揃って来られるとは…いったい何の御用だ?」
新見はこれから自分の身に降り注ぐ事には全く気付いていない様子だ。
「新見さん、貴方が島原にいる間にこのような物を作らせてもらいました。」
そう言うと、土方は『局中法度』と書かれた紙を新見に手渡した。
「我等新選組も人数が増えてきました。大所帯になったからには、規律が必要だ。それがこの『局中法度』ですよ。」
「新見さんはこの法度をどう思いますか?」
土方と山南は、新見を納得させるような言い方で言った。
「そうだな。我等新選組も規律が必要だな。この法度、心得た。」
土方は新見のこの言葉を待っていた。新見に納得させれば、新見にも法度を適用させる事ができる。
「では新見さん、島原に入り浸り、仕事をしないという事は士道に背く行為だとは思いませんか?」
新見の眉がピクリと動いた。
「…それはどういう意味だ…?」
頭のきれる新見は土方の言葉を理解している。しかしあえて聞き返した。
「だから新見さん、あんたのやってる事は士道に背く行為なんだよ。」
新見の眉はさらにヒクヒクと動き出した。しかし、ある事に気付き、笑いだす。
「…はっ…土方、山南、残念だったな。その法度はこれから適用されるんだろ。私が島原にいたのは法度が出来る前だ。」
「残念ですねぇ、新見さん。この法度が出来たのは貴方が島原に入り浸り出した日なんですよ。貴方はこの法度を破った事になりますね。」
珍しく、山南からは温厚な雰囲気は消え、殺気すら漂っている。
新見は言い返したい思いはあった。刀を抜いて土方と山南に斬りかかったところで、二人の実力は知っている。無残に殺されるくらいなら、武士らしく切腹してやると。
「…お前ら…この法度で自分の首絞めるなよ…特に山南さん、あんたは気をつけな。」
そう言い残し、新見は潔く切腹した。
『自分の首絞めるなよ』
この時、新見は新選組の未来が見えていたのだろうか。
『局中法度』による残酷な運命が。