局中法度
土方が広げたものには『局中法度』と書かれ、このように記されていた。
一、士道ニ背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許ズ
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟ヲ取扱不可
一、私ノ戦闘ヲ不可
以上相背候者切腹申付ベク者也
「…切腹……」
「…これは俺らにも…か…?」
それぞれ胸の内には思いがあるだろう。しかしこれをもってしないと、芹沢暗殺は難しい。特に、頭のきれる新見を陥れるには。
新見を切腹させるための手筈はこうだ。
最近の新見は、島原に入り浸り、全く屯所へ帰って来ていないのだ。仕事もせずに遊郭で遊んでいる。これは士道にあるまじき行為だろう。新見が入り浸り出したすぐ後に法度が出来た事にし、法度を破った者として切腹させる。
新見に切腹を迫るという事は、頭のきれる新見を丸め込まなければ行けない。どんな反論をされても返答出来るように、山南と土方が受け持つ事にした。
芹沢暗殺には、かなりの困難が要されるだろう。芹沢は何といっても神道無念流の達人だ。シラフでは反対に殺られてしまう可能性もある。とにかく、酒をしこたま飲ませ、酔って寝入ったとこを暗殺する。
そういう事で、今晩は隊士全員を島原まで連れて行き、屯所を空にしておくのだ。
万が一の事を考え、腕のたつ者達が選ばれた。
沖田、土方、原田、山南
他の者は平隊士達が屯所へ帰らぬよう、また怪しませないように島原へ残る事になった。
「これは内密に、そして失敗は許されない。皆、心してやってくれ。では土方
くん、山南くん、新見くんを頼んだ。」
近藤は神妙な面持ちで二人に告げた。
「あぁ…行ってくる。」
「承知いたしました。」
そう言い、土方と山南は出て行った。
「近藤さん、なつちゃんはこの事知ってるんですか?」
平助は思い出したように言った。
「いや…言ってない…」
「それは言った方が良いんじゃないか?それにお梅さんはどうするんだ?芹沢さんが寝ているとなれば彼女だっているだろう。」
永倉は女を供にするのは…と顔を歪めながら言う。
「あの方には悪いが、芹沢さんのお供をしてもらおう。」
なつがはたして、納得するだろうか?あの一件以来、顔を合わせてはいないものの、京言葉を教えて貰うのにしばらくほとんどの時間を共にしていたのだ。芹沢へもお梅へも、近藤らとは違う思いを持っている気がする。
言うべきか言わぬべきか。近藤は答えを出せぬまま時間は過ぎていった。