密命
近藤、土方、山南の三人は会津本陣金戒光明寺に呼び出されていた。本来なら芹沢と新見も呼ばれるはずなのだが。彼らが呼ばれないのには理由があった。
「芹沢は何とかならんのか!奉行所から苦情が相次いでおる。これ以上こちらに迷惑がかかるのであればそれなりの覚悟を持っていただきたい。」
会津藩公用方の広沢は怒りに満ちた声色で言った。
「広沢様、それは私たちが芹沢に手を下しても良いという事でしょうか。それが会津公のお考えと捉えてよろしいんですね。」
土方はニヤリと笑みを浮かべながら言う。
「あぁ。そう捉えてもらっても良い。」
「畏まりました。」
土方が頭を下げるの見て、慌てて近藤、山南も頭を下げた。
帰り道、近藤は腕を組みながら眉間にしわを寄せていた。そして前を歩く土方に言う。
「なぁ歳、何とかならないか?」
「あ?芹沢を救えってことか?」
近藤が前向きにこの話を聞き入れると思っていなかったが、やはりそうきたかと近藤に向き直った。
「芹沢さんは新選組を旗揚げした時からの同志ではないか。これでは仲間内の争いではないか。」
土方ははぁと溜息をついた。
「いいか?芹沢の今までの行いを考えてみろ。強請たかりに乱暴狼藉、刃傷沙汰も数知れず。これじゃあ会津公に愛想尽かされても仕方ないだろ。せっかく京まで上ってきてここで会津に見放されたら俺たちはただの浪士集団に戻っちまうんだぞ?」
近藤は分かっているというが、どこまで本気なのだか。
「近藤さん、辛い決断になるとは思います、しかしこれは新選組が通らなくてはならない道なのではないでしょうか。」
山南は近藤を諭すように言った。近藤の眉間のしわはさらに深く刻まれていた。そして目を閉じ、ゆっくりと、深く頷いた。
近藤の部屋には試衛館一派と斎藤が集められていた。近藤、土方、山南のただならぬ表情に普段、冗談ばかりの左ノ助も口をつぐんでいた。
「会津藩から芹沢を何とかしろというお達しがあった。これがどういう意味か分かるよな?」
皆、一様に頷く。
「芹沢暗殺は新選組の行く末に必要不可欠な事だ。分かってくれ。今回の暗殺は芹沢ひとりを殺っても意味がない。芹沢一派の一掃だ。それには綿密に計画しなくてはならない。相手は神道無念流の達人なんだからな。それに新見も頭がきれる。まずは芹沢の頭脳からだ。」
土方はそう言うと、一枚の紙を広げた。