実力
なつが通りを歩いていると、大きな人だかりが出来ていた。
「ん?何だろう?」
近づくにつれ、男の声と、恐怖を感じている女の声が聞こえてきた。
「おい、女。俺達に付いて来いって!」
「離してください!うちは買い物の途中なんどす!遊んでる暇はないんどす!」
明らかに嫌がっている。男は四人。女のまわりを囲んでいる。女は周りの野次馬達に助けを求める目をするが、誰も助けようとしない。
「何で誰も助けないの…?」
なつが呟くと、近くにいたおじさんが話してきた。
「そんなん、助けに行ったらこっちがやられてまうやないか。そのうち奉行所のもんが来るさかい、見てるだけでええんや…」
なつは唖然となってしまった。人任せもほどがある。女は今にも連れて行かれそうなのに。
なつは人だかりをすり抜けて、前に出た。総司は慌ててなつの後を追う。
「ちょっとそこの頭の悪そうな浪人さん?その人嫌がってますよ〜。見て分からないの?」
なつは考えるより先に体が動いてしまった。なつの言葉に怒りを込めた言葉が返ってくる。
「…お前…頭の悪そうというのは俺らの事か…?」
男達は既に標的をなつに変えていた。
「あんた達以外、誰がいんの?」
「お前、女だからって…!!!うっ……」
主犯格の男がなつに近づくと、突然、男は低い呻きをあげて意識を失った。
「?!?!兄貴?!」
子分と思われる男が倒れた男に駆け寄る。倒れた男はどこも怪我をしていない。しかし、意識を失っているのだ。
「っお前!!兄貴に何をした?!」
「ちょっと眠ってもらっただけ。そのうち気がつくから心配ないですよ。」
なつは、男が近寄ってきたすきに首元に手刀をお見舞いしたのだ。
「この女…調子に乗ってんじゃないぞ!!…?!?!」
兄貴を倒されたのが悔しいのか、歯向おうとした子分。しかしなつは子分が刀を抜こうとした瞬間にその手を抑え、またもや手刀で意識を絶たせてしまった。
まわりの野次馬は呆気にとられている。そりゃそうだろう。女ひとりで男二人を倒してしまったら。
そして総司もホッとしたのと同時に、なつの度胸の良さに感服していた。
なつは女の無事を確認すると、その場を立ち去った。
京の町では、なつはちょっとした噂になった。まるで救世主が現れたかのように。しかし、その噂もなつは気にも留めていなかった。当然のことをしたまで。それぐらいにしか思っていなかった。