表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/82

幸せの時間

 一応の任務は終えたなつ。しかしまだ島原にいた。任務が終わったとはいえ、店には手伝いとして入っている。約束された期間は、遊女として、お座敷にでていた。

 その約束された期間も今晩まで。次の客の座敷が終わればなつの仕事は終わり、屯所へ帰れるのだった。


 いつものように襖の外から声をかける。

「ようこそ富音屋へおいでくださいました。天神牡丹と申します。よろしゅう。」

 開けられる襖。頭を上げ、中の客と視線を合わす。

「あ………。」

 そこには、会いたくてたまらなかった人の姿があった。

「総司…」

 何も言わずに屯所を出てきたなつ。天神牡丹の姿を見られるのは心苦しいものがあった。この姿でお座敷に出ていた。久坂との一件もあった。

しかし総司を見ると、ただ愛おしく自分を見てくれている。仕事だから仕方がないといわれればそうだろう。しかし総司に対する罪悪感が心の片隅にあったのだ。

「……ごめん…。」

「何に対するごめん?」

「えっと…何も言わずに出てきたこと…。」

「それから?」

「え…っと………。」

 久坂の事は口に出せなかった。きっと総司なら分かってくれる。仕事なんだから仕方がない。でも言えない。なつはそう思った。

 下を向き、言葉を探すなつ。沈黙を破ったのは総司だった。

「お疲れさま。」

 総司はなつの言葉を待たずして、なつを抱きしめた。屯所にいる時の素顔のなつではなく、遊女特有の化粧をし、艶やかな着物に包まれ、女性らしさを一層増したなつを。

甘い香りが総司の鼻をくすぐる。こういうお店へは来ることがない。来たとしても何人かでだったり、新選組の宴会がある時だったり。こういうところで二人っきりになるということだなかったのだ。

「総司…?」

 何も言わない総司。ただ抱きしめただけで、しゃべろうとしなかった。不審に思ったなつが総司の顔を覗き込む。上目づかいで総司を見るなつ。

「………///////…なつ…。」

「何?」

「そんな目で見ないでよ…」

「え?」

 顔を赤らめる総司に気付かないなつはさらに総司に顔を近づけた。


 総司の糸が……………切れた。


「え?!?!」

 くるりと視界が変わる。総司はなつの上にいた。

「総司?!」

「なつが悪いんだからな…。そんな目で見るから………。」

 総司はなつに反論させないように自分の唇でなつの唇をふさいだ。総司の口付けは優しく、包み込むような温かさがあった。久坂のように自分の欲望だけの強引な口付けではない。愛のある口付けに、なつは酔いしれていた。

 一向に反攻しないなつに、総司は戸惑いを感じ始める。体勢が体勢なだけにどうすれば良いのか…。馬乗りの状態から普通に戻るのも不自然。そして自分の限界というものも感じていた。

 総司の唇が徐々に下に下りていく。鎖骨らへんに来た時に、なつもいつもと違うことに気付いた。

「総司…?」

「そろそろ…良いだろう…?」

「////////////////」

 総司の言っている意味は分かる。顔を赤らめながら小さく頷いた。


 不器用に外されていく帯にも、総司の息遣いにも、全てに神経を集中するなつ。でもそれは幸せの瞬間だった。固まっていた身体がだんだんとほぐれていく。総司の身体から溢れる愛を感じ、そして総司からの愛以上の愛を返そうと努力する。

 二人にとって、幸せな時間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ