幸せの時間
一応の任務は終えたなつ。しかしまだ島原にいた。任務が終わったとはいえ、店には手伝いとして入っている。約束された期間は、遊女として、お座敷にでていた。
その約束された期間も今晩まで。次の客の座敷が終わればなつの仕事は終わり、屯所へ帰れるのだった。
いつものように襖の外から声をかける。
「ようこそ富音屋へおいでくださいました。天神牡丹と申します。よろしゅう。」
開けられる襖。頭を上げ、中の客と視線を合わす。
「あ………。」
そこには、会いたくてたまらなかった人の姿があった。
「総司…」
何も言わずに屯所を出てきたなつ。天神牡丹の姿を見られるのは心苦しいものがあった。この姿でお座敷に出ていた。久坂との一件もあった。
しかし総司を見ると、ただ愛おしく自分を見てくれている。仕事だから仕方がないといわれればそうだろう。しかし総司に対する罪悪感が心の片隅にあったのだ。
「……ごめん…。」
「何に対するごめん?」
「えっと…何も言わずに出てきたこと…。」
「それから?」
「え…っと………。」
久坂の事は口に出せなかった。きっと総司なら分かってくれる。仕事なんだから仕方がない。でも言えない。なつはそう思った。
下を向き、言葉を探すなつ。沈黙を破ったのは総司だった。
「お疲れさま。」
総司はなつの言葉を待たずして、なつを抱きしめた。屯所にいる時の素顔のなつではなく、遊女特有の化粧をし、艶やかな着物に包まれ、女性らしさを一層増したなつを。
甘い香りが総司の鼻をくすぐる。こういうお店へは来ることがない。来たとしても何人かでだったり、新選組の宴会がある時だったり。こういうところで二人っきりになるということだなかったのだ。
「総司…?」
何も言わない総司。ただ抱きしめただけで、しゃべろうとしなかった。不審に思ったなつが総司の顔を覗き込む。上目づかいで総司を見るなつ。
「………///////…なつ…。」
「何?」
「そんな目で見ないでよ…」
「え?」
顔を赤らめる総司に気付かないなつはさらに総司に顔を近づけた。
総司の糸が……………切れた。
「え?!?!」
くるりと視界が変わる。総司はなつの上にいた。
「総司?!」
「なつが悪いんだからな…。そんな目で見るから………。」
総司はなつに反論させないように自分の唇でなつの唇をふさいだ。総司の口付けは優しく、包み込むような温かさがあった。久坂のように自分の欲望だけの強引な口付けではない。愛のある口付けに、なつは酔いしれていた。
一向に反攻しないなつに、総司は戸惑いを感じ始める。体勢が体勢なだけにどうすれば良いのか…。馬乗りの状態から普通に戻るのも不自然。そして自分の限界というものも感じていた。
総司の唇が徐々に下に下りていく。鎖骨らへんに来た時に、なつもいつもと違うことに気付いた。
「総司…?」
「そろそろ…良いだろう…?」
「////////////////」
総司の言っている意味は分かる。顔を赤らめながら小さく頷いた。
不器用に外されていく帯にも、総司の息遣いにも、全てに神経を集中するなつ。でもそれは幸せの瞬間だった。固まっていた身体がだんだんとほぐれていく。総司の身体から溢れる愛を感じ、そして総司からの愛以上の愛を返そうと努力する。
二人にとって、幸せな時間だった。