不安
なつが島原へ行ってからの隊士たちへの食事は、八木家の人が作っていた。どうも食の進まない者が多かった。
「なんか食ってる気しねぇなぁ。全然味がねぇ。」
どんなものでも文句を言わない左乃助でさえ、こんなことを言い出した。それもそのはず、なつが作る食事というのは東の味付け。京の人からすればそれは食材の味を消しているとでも言うかもしれないが。それ故、京の味付けは全く味がないように感じていた。
「おなつちゃんがいないんだろう。仕方ないさ。」
「なつはどこに行ったんだよ。」
「土方さんに仕事だって呼ばれてから見かけてませんよ。もしかして、島原にいったんじゃ…。」
「そうか…」
左乃助・永倉・平助は味のないものを仕方なしに口にしながら話している。
「島原か…総司、納得したのか?…っていうかあいつ、大丈夫か?」
三人が総司の方を見ると、定まらない視線でどこを見ているのか分からない。出されている料理を口に運んではいるが、味など全く分かってなさそうにしていた。
総司は何も考えられないようだった。自分に一言も無しに行ってしまったなつ。いつ帰ってくるかも分からず、行こうにも店の場所も名前も土方は教えてくれなかった。
場所が場所なだけに、総司の不安は募る一方。ただ溜め息ばかりが出ていた。
そんな総司を見つめている近藤。土方のやり方は正しい。しかし少し強引なのじゃないかと思う所もあった。
「歳、総司にぐらい店の場所を教えてやったらどうだ?」
こちらも食の進まない様子だが、それでも出されたものは全てたいらげた近藤が土方に耳打ちした。
「それじゃなつの身がはいらねぇじゃねえか。せめて何かの情報を得てからだ。」
ぶっきらぼうに言う土方。近藤も分かってはいるが、総司を見ているといたたまれなくなるようだ。近藤自身が総司に教えてやれれば良いのだが、重要機密ということで、土方以外知るものはいなかった。局長である芹沢も近藤も例外ではない。
なつは絶対に新選組の関係者だとばれてはいけないのだ。そのためには情報も徹底する。それが土方のやり方だった。