誤解と弁解
いつの間にか眠ってしまった土方。目を覚ますと、周りには疑いの目を向ける試衛館組がいた。
「おはよう、歳。」
「お…おう…?」
現状の掴めていない土方。
「土方さん、どういうことですか?」
総司の言い方にはやたら刺がある。
「な…何がだ…?」
そこに土方の膝枕で寝ていたなつがむくりと起き上った。辺りを見渡し、
「皆さんお揃いで。おはようさんどす。」
昨日とは打って変わってすっかり京ことばになっているなつ。こちらも現状を掴めていない様子だが、土方と顔を合わせ思い出した。
「「………あ…」」
声の揃うなつと土方。
「何が『あ』なんだよ。土方さんが総司の女に手ぇ出しちゃまずいんじゃねぇの〜?」
ニヤニヤと茶化すように左乃助は言う。
「いや…これには訳があってだな。昨日の晩、気晴らしに部屋の外に出たらなつがいて、抱くだの抱かねぇだの話してたら寝ちまったんだ。」
明らかに要約の仕方を間違えた土方。最も怪しい回答をしてしまった。
「歳!!お前って奴は…なつは総司と恋仲なんだぞ?!分かってそんなことをしているのか?!」
「土方さん、やっぱやることが違うね〜。」
「土方さん…いつでも殺してあげますよ…?」
「こんなところで…ですか…?」
「土方さん、これは沖田さんに謝った方が良いのでは…。」
皆、口ぐちに言う。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
土方のあまりの声の大きさに静まり返る一同。
「何を勘違いしてんのか知らねぇが俺はなつを抱いちゃいねぇ!ちょっと女に見えただけだ!!」
無言でさらに軽蔑の目を向けられる土方。またもや爆弾発言をしてしまったのだからもういい訳の仕様がない。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて…。」
「そう言う意味じゃないとなるとどういう意味なのでしょう?」
普段、物静かな源三郎にまで言わせてしまった。よっぽどだったのだろう。
そんな中、喜ぶ者がひとり。
「土方はん?うちのこと、女に見えたんどすか?それは色気を感じたいうことやろか?」
昨日のなつはどこへ行ったのか。悪戯っ子の目をしたなつがそこにいた。
「いや…色気を感じてないって言ったら嘘になるけど、いやでも…」
しどろもどろな土方の言い方に、ますます怪しい疑いが掛かってきた。
「と、とにかくだな…悪いのはおめぇだ総司!!」
「わ…私ですか?!」
突然、悪者扱いをされた総司。
「おめぇがさっさとなつを抱いてりゃこんなことになんねぇんだよ!!」
朝の発言とは思えないことを言い出した土方。皆、呆れたように戻って行った。
自室で先ほどの発言を反省した土方。誤解招く言い方をし、朝とは思えない発言。動揺していたとはいえ流石にあれはまずい。土方は善は急げと総司の部屋へ向かった。
「総司いるか?入るぞ。」
「何ですか?変態副長。」
総司は皮肉たっぷりで言った。
「へ…変態って…。」
「あれ?違いました?私の中で土方さんは変態以外何者でもないんですけど。」
総司の言葉ひとつひとつが痛い。総司は自分の知らないなつと土方の時間によっぽど恨みがあるようだ。
「俺はちゃんと釈明しようと思って来たんだよ。」
「分かりました。聞きますよ。」
ようやく聞く体制になった総司。誤解のないよう、言葉を選びながら話し始めた。
「昨日の晩、部屋の外に出たらいつもと違う雰囲気のなつがいたんだ。嘘は言わねぇ。俺はあいつに色気を感じた。そしたらなつが俺に気付いて、俺に抱いてくれって言ったんだ。」
総司は目を丸くした。まさか自分の恋仲の相手が他の男に抱いてくれなんて言うとは…。
「でも普通ならそんなこと言わねぇだろう。問いただしたら、どうも芹沢が女をなつの目の前で抱いたらしい。戸惑ったんだとよ。そしたら身体がほてりだしたらしく。その意味を俺が教えてやった。」
「なんて言ったんですか?」
「それは身体が男を求めてる証拠だってな。」
言葉が出ない総司。おもわず顔を赤らめる。
「そういうことを話してたらあいつが寝ちまったんだよ。動かすのもあれだから寝かせてやってただけだ。だから俺は変態じゃねぇ!」
語尾を強調するが、総司の耳にそんなことは入らない。
「なつ、なんで私のところへ来なかったんだろう…。」
「さぁな。恥じらいがあったんじゃねぇか?………お前、もしなつがお前の部屋に行ってたらどうしてた?」
「どうしてたとは?」
「なつを抱いてたか?」
「……………当たり前じゃないですか…。」
自信のなさ気に言う総司。それに気付きながらも土方は言葉を続ける。
「じゃあ早くあいつを抱いてやれ。大人になれよ、お前も、なつも。」
総司は赤くなった顔を土方に見せないように俯いた。
土方が部屋を出て行った後、総司はひとり考えていた。
土方にああは言われたものの、どうして良いか分からなかった。なつと恋仲の関係になり、だいぶ経つ。なつは今、芹沢の部屋で寝ているためそういう機会もない。
自分がなつを求めて拒絶されたりしないだろうか。その自分をなつはどんな目で見るのだろうか。様々な不安が頭を過ぎった。なつを大切に思うが故の考え。総司は頭を抱えていた。




