大人への階段
溜まった仕事に埋もれていた土方。気分を変えようと廊下へ出た。そこには月明かりに照らされ、顔をほんのりと染めた、なんとも言えない表情をしたなつの姿があった。
トクン…
土方は自分の中に起きた違和感に気が付いた。
な…何動揺してんだよ、俺…。
今晩のなつにはいつもと違う雰囲気が漂っていた。土方が自分の中の違和感と葛藤していると、なつが土方の存在に気付いた。
「土方さん…。」
トクンッ……
…まただ……。
いつもと変わらぬ声なのに、いつもと全く違う空気に包まれているなつ。
土方が頭を抱え、何やら呻いている。不思議そうに土方を見上げていると、土方はなつの隣にどかっと腰を下ろした。
「土方さん、どうしたの?」
土方の様子に疑問の表情を浮かべるなつ。
「何でもねぇよ…。」
まさかなつに女を感じたなんて、口が裂けても言えない。土方はいつもと変わらぬふりをした。そんな土方に、なつは質問をぶつける。
「土方さん…なんで土方さんは女の人を抱くの?」
「…はぁっ?!」
なつから出た思わぬ質問の声が裏返った。
「何で?好きだから?どんな時に抱きたいって思うの?」
「…それはだな……抱きたいからだ。抱きたい時に抱く。」
「それだけ?じゃあ今は?今は誰かを抱きたいって思う?」
なつの話の意図が全く読めない土方。しかし、なつから感じた女の色気に、身体が熱くなったのは事実だった。
しばらく考え、ボソッと呟いた。
「そういや最近、抱いてねぇなぁ…」
次になつから発せられる言葉に、土方は唖然となる。
「…じゃあ土方さん……あたしを抱いて…?」
言葉の出ない土方。開いた口が塞がらないとはこの事。
なつの表情は真剣だった。
「…あのなぁ…いくらなんでも総司の女抱くほど不自由はしてねぇよ…」
「土方さんのためじゃない。あたしのために…。」
「抱いてほしけりゃ総司の所に行けよ。あいつに妬まれるのはごめんだぜ?」
「……………。」
この時、土方は気が付いた。なつが元の言葉に戻っていることを。最近は総司と二人の時以外、京ことばで話していたのだ。それは土方に対しても同じ事であった。しかし今のなつはすっかり戻っている。
「お前…なんかあったろ?何があった?話してみろよ。」
土方の誘導するような言い方に、なつの口も動く。
「芹沢さんが…お梅さんを……。」
「ついに…か…。それを見せられたんだな?」
なつは小さく頷いた。
「動けなかった。見たくないのに金縛りにあったみたいに身体が言う事利かなくて…。そしたら身体が熱くなってきて、自分の身体じゃないみたいで、怖くて…。」
なつは身体が震え出した。土方はなつを落ち着かせるようになつの肩を抱き、自分の方へもたれかからせた。
「なつ、それはお前の身体が男の身体を求めてたんだ。」
土方の発言に、なつは顔を紅潮させる。
「っそんな…求めるだなんて…////////」
あのお梅の立場になりたいと、自分の身体が言っていたのだろうか。あんな淫らな声と表情になりたいと…。
「何も恥じらう事じゃねぇ。大人になった証拠だ。」
土方にそう言われようと、女が男を求めるなんて…。否定しようと口を開けかけた所で、土方に割って入られた。
「実際、俺に抱いてくれって言ったじゃねぇか。」
「っっ…それは…」
「男と女が求め合うのは恥じらう事じゃねぇ。それじゃないと餓鬼は生まれねぇし、俺やお前だってそうなった末に生まれてきたんだ。」
納得する反面、なつの中に疑問が湧いた。
「土方さん、子どもいるの?」
またもやなつの発言に唖然とする土方。
「いねぇよ!何で俺に餓鬼がいんだよ!!」
突拍子もないなつの質問に本気で否定する。
「だって土方さんぐらい女の人抱いてたら一人ぐらいいるのかな〜と思って。」
「…いや、俺はだな…餓鬼ができねぇようにうまくやってんだ…って俺は何を言ってんだ!!」
「……………。」
なんの返答も反応も無くなったなつ。顔をのぞいてみると、気持よさそうに眠るなつの姿だった。
はぁ〜…しょうがねぇ奴だな…。
土方はなつを横にさせ、自分の膝になつの頭を乗せた。