真実
総司は京の町の案内役として、なつの買い物の付き添いをしていた。久しぶりに会った二人はおしゃべりに夢中。江戸にいた頃を思い起こさせるようにはしゃいでいた。
「京へ来て、どんな仕事をしたの?」
「将軍様の警護だよ。」
実はこの時、総司は嘘をついていた。清川が作った浪士組から離れていた壬生浪士組は、ただの浪士。どこにも属してもいない、将軍警護要請も来ない、ただ将軍の行列を見ているだけだった。
しかし、なつはすっかり信じ込み、試衛館の仲間が京を護っているのだと思っていた。
「すみませーん!これくださーい!」
なつは八百屋の主人に声をかけた。
「へーい。おおきに。…………。」
八百屋の主人はなつと総司を見て、言葉を無くした。
「あ…あの〜何か…?」
まじまじと顔を見られて不審に思うなつと総司。
「いや〜別嬪はんと凛々しいお方があまりにもお似合いやさかい、見とれてしもてたわ。勘忍え〜。」
本人達は気付いていないのだが、実はこの二人、横に並ぶと美男美女という言葉がぴったりなのだ。それを自覚していない二人なのだが…。
「やだな〜商売上手なんだから。じゃあ、お葱ももらっちゃいます。」
「お世辞ちゃいまっせ〜、ほんまの事や。お譲はん、どちらから来はったん?」
「江戸から来ました。今、壬生浪士組にいます!」
自信満々に答えたなつ。総司はそれを止めようとしたが間に合わなかった。
急に八百屋の主人の顔が変わった。
「あんた、『壬生浪』の仲間なんか。あんな田舎侍に食わせるもんはない。もう来んといてくれるか。」
「…え?どういう事ですか…?」
「…っ…なつ行こう!」
総司に引っ張られ、八百屋を後にした二人。重苦しい雰囲気が流れた。
鴨川沿いを沈んだ顔で歩く二人。話す言葉を探していた。
「総司…どういう事…?」
やっとの思いで口を開いたなつ。
「実は…私たちは京の人達から、恐れられてるみたいなんだ。」
言いにくい言葉を続ける総司。
「原因は、壬生浪士組のもうひとつの一派の芹沢先生達なんだけど、あちこちの貸金屋からお金を借りまくっているんだ。それも脅迫紛いで。確かに今、壬生浪士組はお金を貰える立場にいない。そうしないと生活していけないのは確かなんだ。」
なつには信じられなかった。壬生浪士組は将軍様を護り、京の人々を護っているのだと聞いていた。それは方便だったのだ。
「じゃあ、総司たちはどうやって生活してるの?」
「芹沢先生に…貰っている…」
それは、京の人々からお金を巻上げているのと同じだとなつは思った。何のために京にいるのか、疑問しか思い浮かばなかった。
「総司…ごめん、一人にして…」
まだ京に来て間もないのに一人にはできない。総司はなつからは見えない所に身を隠し、後ろから付いていくことにした。
なつは悲しかった。上様を護り、京の人々を悪い奴らから護っている皆がなつの誇りだったのだ。それなのに護るどころか『壬生浪』と恐れられていた。お金が無いなら、無いなりに働く事もできるはず。それなの、強請、たかりでお金を京の人々から奪い取り、のうのうと暮らしているのが許せなかった。
「芹沢って人にやめてもらえば良いんだ。」
なつはこの時、まだ知らなかった。芹沢という男の正体を。