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こだわり

 それからなつは、仕事以外の時間はお梅と共にするようになった。お梅から発せられる一言一句、聞き逃すまいと必死だった。

 夜、仕事が終わると芹沢の部屋へ行き、お梅の隣に布団を敷いて寝る。幸い、二人が事を成すことはなく、今のところ、問題なく順調に進んでいた。


 なつの仕事は朝食の支度から始まる。それを終えると皆を起こしに行くのだ。

「山南はん…お食事の用意が出来ましたえ。」

 山南の部屋の外から声をかけるなつ。山南は、照れくさそうに障子を開けた。

「なっちゃん、私たちの前では普通に喋って欲しいな。なんだかくすぐったくて…」

 山南は苦笑いしながら言った。

「せやけど山南はん、普段からつこておかな完璧な京女にはなれしまへんやろ?せやから…勘忍え。」

 なつは山南にニコリと笑いかけると、足早に他の隊士の部屋へ向かった。


 なつの京ことばについては、幹部隊士は理由も全て知っての上だった。しかし平隊士には、単になつが京ことばに興味を持ったからという事にしてある。密偵になるという事は幹部にのみ話された事だったのだ。

 ただ、なつにも京ことばに対してこだわりがあった。総司と二人の時は使わない。それはなつの優しさ。総司といる時だけは、偽りのない自分でいたいと思ったからであった。


 なつは総司の部屋の前へ来ていた。

「総司、ご飯出来たよ。」

「……………。」

 返答がない。まだ寝ているのかとそっと障子を開けた。そこにはまだ規則的に呼吸をする総司の姿があった。


  総司、まだ寝てたんだ…。


 人が近くにいるというのに、何の警戒心も持たずに寝息を立てている総司がおかしかった。本当にこの人が剣客なのか不思議になるほどだった。


  あたしが刺客なら、間違いなく総司、殺られてるよね。


 物騒な事を考えつつ、総司の寝ている隣に寝転がり、寝顔を眺めていた。綺麗な目鼻立ちは誰もが見入ってしまう程。それをこんな間近に見ていると、自然と顔が赤くなる。

 すると突然目の前が真っ暗になった。そして温かな温もりが伝わってくる。少し離れて転がっていたなつを総司が引き寄せたのだ。

「朝から寝転がってきて何してんの?」

「……///////何してるはこっちの台詞だよっ////」

総司に抱きしめられながら、強がりをいうなつ。恥ずかしさでいっぱいだった。


 なつを抱きしめたまま一向に離れない総司。

「そ…総司?いつまでこうしてるの?あたしまだ土方さん起こさなきゃいけないんだけど…」

「…んーもうちょっと。土方さんなんてどうでも良いよ。」

 土方本人が聞いたら青筋をたてるだろうが、総司の言い方はとても可愛かった。

「総司、もう少し警戒心持った方が良いんじゃない?あたしが刺客なら総司殺られてるよ?」

 笑いながらいうなつに総司も笑いながら返した。

「本当の刺客なら殺られないよ。なつだって分かってたもん。」

 総司はなつの廊下を歩く足音で起きていた。それは毎日聞く音で、愛しい人の音だから。

「え〜!寝たふりしてたの?」

「そうだよ。」

 悪戯っ子のような笑顔でなつの顔を覗いた総司。思った以上に近かった顔に赤面する。それはなつも同じ事で、目を逸らしてしまった。

 しかし逸らした視線をもう一度ぶつかり合わせ、静かに目を閉じた。


 唇が重ね合いそうなその時、

「総司いつまで寝てんだ!!なつはど…こ……に………。」

 なつが起こしに来ないと食堂へ行くと、総司もまだ起きてきていない事を知った土方。なつの居場所を総司に聞こうと総司の部屋へ来てみたら…。

 土方の目に映ったのは、布団の上で抱き合いながら今にも口付けしそうな距離の二人。

「てめぇら朝から何やってんだーーー!!!!」

 土方の怒号が屯所中に響き渡るのであった。


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