京女への道のり
土方から一連の経緯を聞いた近藤は、なつと共に芹沢の部屋へ来ていた。一通りの説明を終えた近藤が、芹沢に頭を下げた。
「ぜひ、芹沢さんとお梅さんの力を貸していただきたい。」
近藤が頭を下げるのを見て、慌ててなつも頭を下げる。
本来ならば、なつを密偵にする事は芹沢に伏せておこうと思っていた。しかしお梅の力を借りるとなれば全て話すしか道はなかった。
「お前が密偵か。はっ…お梅教えてやれ。」
鼻で笑う芹沢に多少の違和感を感じながらも、納得してくれた事に安心した。
「うちが京ことば教えるんはかましまへん。せやけど中途半端は大嫌いや。やるなら完璧な京女になってもらいますえ?」
お梅は妖艶な笑みを見せながらなつに言った。なつもやるならば完璧になりたい。そう思っていたため、お梅の意気込みは逆に嬉しかった。
なんとか道が開けたと思い、近藤も安堵の表情を浮かべる。しかしそれは芹沢の一言で一気に不安な表情へと変わった。
「なつ、お前これから俺の部屋で寝ろ。」
「「…………はい?!」」
思いもよらぬ芹沢の言葉に、なつも近藤も固まってしまった。
「完璧な京女になるんだろう?それならお梅がどんな言葉を使うのか、常に聞いておいた方が良いんじゃねぇのか?」
それも確かにそうだと納得しかけた近藤。しかしまたもやその納得は裏切られた。
「いややわぁ、芹沢はん。“あの時”もおなつはんを傍においておかはるの?」
それは妖艶にさらに磨きのかかったお梅の言葉であった。
「当たり前だ。遊女になるなら当然だろう。“そういう時”に京女がどう喘ぐのか、知っておかねぇと京女じゃないってバレちまうぜ?」
近藤は芹沢に怒りすら感じられた。自分の娘のように思っているなつにそんな事はさせられない。
「芹沢さん、やはりこの話は無かった事に「分かりました。勉強させていただきます。」」
近藤の言葉を遮ってなつが言った。
「なつっ!!」
「近藤先生、芹沢先生の言うとおりですよ。万が一に備えて万全を期すのが当然の事でしょう。」
なつは真っすぐ近藤を見据えていた。その視線に何の迷いもない。こうなったら頑として意見を変えないのを近藤は知っていた。そして自分が撒いた種だという事を後悔した。
なつを遊女にするという決断。これが正しかったのか、今の近藤には判断する頭を持ち合わせていなかった。