決意
総司と土方の会話が止まったところで、障子がスッと開いた。
「なつ…」
なつは総司と走ってきた後、呼吸を整え、すぐに土方の部屋の外へ来ていた。しかし中から聞こえてくる二人の討論に、入ることが出来なかったのだ。なつは向かい合う総司と土方のちょうど斜めになるところに腰をおろした。
「総司、土方さん、約束します。あたし、絶対に身を売るような事はしません。それが誰であっても。」
総司を納得させるにはこう言うしかなかった。
もちろん島原の女になれと言われた時、そういう事を考えなかった訳ではない。総司よりも先に、他の男と関係を持ってしまうかもしれない。それは承知の上であった。
その罪悪感は、今の段階では分からない。仕事だからとその時、割り切れるかも分からない。でもなつには新選組には自分が必要だという証が欲しかったのだ。近藤や土方がそれを望むなら、喜んで島原の女になる。
「…だとよ…。総司、まだ納得してくれねぇか?」
総司はしばらく考え、心を決めたように呟いた。
「……分かりました。…でもお願いなんですけど…。」
総司のお願いが簡単な物であることを願う土方。
「京ことばを学ばせるなら、お梅さんにしてもらえませんか?」
言葉の出ない土方。とんでもないことを言うんじゃないかと構えていた土方が拍子抜けしてしまった。
「…それは別に構わねぇがなんでまた?」
「お梅さん、島原にいたんでしょ?それならその場にいた人間に教えてもらった方が良いじゃないですか。」
納得する土方となつ。
「それに…。」
「まだあるのかよ。」
「おまささんの教え方じゃまるで商人なんですもん。」
総司にすらこんな事を言わせるなつの京ことば。店で聞いたなつの京ことばがよっぽど駄目だったんだろう。
「…そんなに駄目だった?」
総司は申し訳なさそうに頷いた。
「なつ、覚えた言葉話してみろよ。」
「きょおはさむおすなぁ。もうかりまっか。ぼちぼちでんなぁ。」
固まる土方。
「芹沢の女に教えてもらえ…。」
頭をかかえながら土方が呟いた。
「えぇ〜?!そんなに駄目ですか?!これ、さっきおまささんに合格もらったんですよ?!」
自信たっぷりに言うなつ。一方の総司と土方は頭が痛いといった動作をした。




