京ことば
初出動を無事に終え、しばらく経ったある日。非番だった総司と井上が京の町をブラブラとしていた。いつも冗談ばかり言っている総司が何やら考え事をしながら歩いている。不思議に思った井上が総司に聞いた。
「総司、どうした?考え事か?」
「あのね、源さん、私何か忘れてるんですよ。」
「何を忘れているんだ?」
「その何かが思い出せないんですよ…。」
そう言われてはどうしようもできない。ちょうどおまさの店の前を通りかかった。
「小腹が空いたし、何か食っていくか?」
総司はなおも考え事をしながら、店へ入って行った。
「おまささん、なんか適当に見繕ってくれないか?」
「へい、おおきに。」
考え事をしている総司とお茶をすすりながらそんな総司を見つめる井上に、聞き覚えのある声が奥から聞こえてきた。
「きょおはさむおすなぁ」
「もうかりまっか」
「ぼちぼちでんなぁ」
商いの言葉としか思えないような、そして完璧棒読みの言葉に唖然としていると、
「そんなんあかんあかん!そんな棒読みやったら京女にはなれしまへんえ?京ことばはもっとやんわりゆうんよ。もう少し頑張らなあかんな、おなつちゃん。」
「「……………なつ?!?!」」
あのたどたどしい京ことばを使っていたのが身内だったとは…。名前を呼ばれたなつは、特に驚く様子もなく、呑気に握り飯を口に運んでいた。
「なんでなつが京ことばを…?」
「あれ?源さん、土方さんに聞いてないんですか?」
「おなつちゃん、うちみたいな京女になりたいねんて。せやからうちが教えてるんよ。」
ひとり、噛み合わないおまさ。しかしそれには気付いていなかった。そして総司はようやく思い出した『何か』の真相を土方に聞くために、なつの手を引張り屯所へと帰って行った。
「お二人、仲良ろしなぁ。」
おまさは天然というのか、なんというのか…。