羽織り
ある日、皆で朝食を取っている際に、芹沢が突然提案をしてきた。
「おい、聞いてくれ。俺達も会津藩の御預かりになったことだし、揃いの羽織りでも作らねぇ か?」
「羽織りですか?」
「いつまでもばらばらの着物より俺達だって分かる方が良いだろ。」
今日の芹沢は機嫌が良いようだ。
「しかし、揃いとなるとけっこうな額がいりますがそんな余分はないでしょう。」
山南が意見する。
「それはまぁ俺がなんとかするさ。案ずるな。」
どうせまた強請をするのだろうと皆が思った。しかし、羽織りというのには皆、興味が湧いた。確かにいつまでもそこらへんの浪人と一緒じゃ示しがつかない。ここらではっきりと壬生浪士組の名を京に知らしめるべきなのかもしれない。
「じゃあこうしましょう。大坂の鴻池から借りる事にしましょう。」
新見が言った。
「あそこはこの前、不逞な輩を退治してやったところだから出すだろうな。」
この話が本当なのかどうかわからないが、芹沢らを信じる他無かった。
「どのようなものにするかはもうお考えなのですか?」
興味津津で身を乗り出す近藤。土方はそれを抑えようとしているが、近藤の興味の方が勝っていた。
「まだ決めていないが。」
「じゃあだんだら模様なんてどうです?赤穂浪士の羽織りを真似て。」
「だんだら模様って山形のやつですか?」
近藤の意見に永倉が袖に山形を手で作りながら聞いている。
「そうです。あれなら夜でも味方だって分かるじゃないですか。」
近藤は目をきらきらさせながら話している。
「よし、それでいこう。色はどうする?」
「口挟んでもえぇ?浅葱色なんてどう?涼しい色やし気持ちえぇでぇ?」
お梅が芹沢の後ろから出てきてそう言った。
「浅葱色?!あんな派手な色にするのか?!」
土方はあからさまに嫌な顔をした。
「いや、浅葱色は武士が切腹する時に着る裃の色ですよ。」
山南の意見に土方は舌打ちをした。
「よし、じゃあ決まりだな。今日、鴻池に行ってくる。」
芹沢は、朝食後すぐに新見らを連れて大阪へと出て行った。
「本当に浅葱色で良いのか?!」
土方はまだ納得いっていない様子だ。
「まぁまぁ土方さん、以外と良い色かもしれんぞ?」
永倉は浅葱色の羽織りが楽しみなようである。
「良いじゃないですか。涼しい色だし、それに総司に似合いそうだし…」
語尾がだんだん小さくなるなつ。聞こえるか聞こえないかの声だったが一番遠くに座っていた土方が吠えた。
「おまえの基準はそこか?!」
「地獄耳…」
ぼそっと呟くなつ。しかしまたしても雷が落ちた。
「お前は黙ってろ!!」
土方は毎日何らかでイライラしているなぁと暢気に考える試衛館メンバーであった。