依頼
翌日、なつは近藤の部屋を訪れた。そこには難しい顔をした近藤・土方・山南の姿があった。
「なんですか?そんな怖い顔して…あ!帰れって言われてももう江戸へは帰りませんよ?!」
なつは勘違いしているようだ。
「大丈夫だ。そんな事は言わん。」
「じゃあ何ですか?三人して腕組んで怖い顔されてたら困るんですけど…」
近藤は一息ついて、話しだした。
「なつ…俺の頼みを聞いてくれるか?」
頼みがあると言われて来たのだから、当然の事なのだが。
「勿論ですよ。土方さんの頼みは聞かない事もあるけど、近藤さんの頼みなら何でも聞きま す!」
微妙に青筋を浮かべる土方。
「…そうか。じゃあ…なつ、京ことばを学んでくれないか?」
「…は?京ことば?」
疑問の表情のなつを見て、土方が話し始めた。
「何れこの壬生浪士組は、京で大きな働きをするようになる。過激な奴らを捕まえなくてはな らないこともあるだろう。そういう時に必要なのは情報だ。」
なつは納得した。なぜ近藤らは自分に頼むのか。それは女にしか出来ない。女という事を生かして情報を得るなんて、仕事は一つしかない。遊女になるという事。
「分かりました。女として生まれた以上、女を生かせる仕事が出来るなんて幸せです。」
すぐに理解してくれたなつは頼もしかった。
なつが出て行った部屋では、安堵の表情をした三人がいた。
「なっちゃん、かわいい少女だったのに、いつの間にあんな大人になってたんでしょうね。」
山南の意見に頷いた近藤。
「試衛館の前に捨てられていたのが嘘みたいだ。」
「いや…あいつはまだまだ子供だ。何てったって男を知らねぇからな…」
土方の話が脱線しそうになったのを察知した山南は、すぐさま話を変えた。
「そういえば、沖田くん、よくなっちゃんが遊女になることを許したねぇ。真っ先に反対しそ うなものだが。」
土方の目が泳いだ。
しまった…あいつらくっつけるので忘れてた…
「おい、歳…まさか話してないんじゃないだろうな…?」
近藤は土方の微妙な変化を感じ取った。
「わ…忘れてねぇよ!総司ももう大人なんだ。それぐらい…分かってる…と思う…」
語尾に向ってどんどん声の小さくなる土方。疑いの目を近藤と山南に向けられ、慌ててその場を後にした。