新入隊士
芹沢の部屋での一件以来、なつは色気については忘れようとしていた。考えるだけ無駄のように思えてきたのだ。
総司がお梅に取られないよう、見張っていれば良い。そう考えるようになった。実に前向きななつである。
今日は隊士募集の日。屯所の中には見慣れない人がチラホラといた。おそらく隊士として合格した人達だろう。
腕があれば身分を問わずに入れる壬生浪士組。ここにいる人達はお世辞にも武士に見えそうな人はいない。町人であったり、力だけが取り柄のような人もいたり、ただでさえ評判の悪い壬生浪士組がますます柄の悪い集団なんじゃないかと思えてきた。
普段、あまり気にしていなかったが、こんな男集団の中にいる自分はけっこう危険なんじゃないかという思いすらしてきたなつであった。
その夜、新入隊士を歓迎する宴が行われた。
「皆さん、私は局長の近藤勇です。こちらは筆頭局長の芹沢鴨先生だ。壬生浪士組は尊皇攘夷 の志の元、上様のため、京の治安を護るという素晴らしい働きをします。共に頑張りましょ う!」
近藤が声を張って挨拶をした。
「「「「オォォォーーー!!!」」」」
さすがである。屯所に地響きが起こりそうなほどの声を出した新入隊士達。近藤も満足そうである。
「おい!お前、名は?!」
既に酔いかけの左ノ助がある新隊士に絡んでいった。
「はい!俺は島田魁です!!美濃出身!力仕事なら誰にも負けませんよぉ!!!」
島田は大きな声で叫んでいた。
「おぉ〜!なかなかやるじゃねぇか!でも俺なんかもっとすごいぜ?なんたって俺の腹は刃物 の味を知ってるんだからよ〜。見るか?!見るか?!」
「はいぃぃぃ!!!見せてくださいぃぃぃ!!!!」
どうやらこの二人、気が合うらしい。テンションが同じだ…。
それぞれがワイワイガヤガヤしている頃、なつが酒を持って現れた。騒いでいた新入隊士達の視線が一点に集中する。それもそうだろう。男ばかりだと思っていた壬生浪士組に年頃の女がいれば…。
「紹介しておこう。女中として働いてもらっているなつだ。何かあればなつに頼むと良い。」
「こんなかわいい娘がいるのか…」
「なんか…楽しみだな…」
「おなつさん…」
どの隊士もなつとの恋を妄想していた。男集団に咲く一輪の花を自分の者にしてやろう。楽しい生活を想像したが、それは一瞬にして砕かれた。
「皆さん!なつに頼むのは掃除や洗濯だけですよ。なつは私のものですから。」
総司は胸を張ってそう言った。
「なんだよ…男いたのか…でもあれぐらいの男なら…」
とある新入隊士が呟いた。総司の実力を知らないこの男からしたら、こんな男からなら奪えると思ったのだろう。
男が持っていた猪口が突如、真っ二つになった。それもキレイに半分に。
「申し遅れました。副長助勤、沖田です。覚悟しておいてください。」
総司はにっこりと笑い、刀を鞘に納めた。男は顔を青ざめ、失神寸前である。
総司の力をまざまざと見せつけられた新入隊士達。決してなつに手を出すまいと心に決めたのだった。
そしてもうひとり、幹部の中にも大きな傷から立ち直れない者がいた。藤堂平助。彼を癒してくれる女性は現れるのだろうか。