争奪戦
左ノ助を殺害しそうになったのを堪えた総司。より強い負の空気を纏っていた。しかしそんな総司を諸ともしない土方が総司に声をかけた。
「おい総司、何そんなに苛立ってんだよ。」
「土方さん…今、私に近付かない方が良いですよ。土方さんであっても何をするかわかりませ んから…」
そんな総司を見て、土方は溜め息をつく。どうせなつ絡みだろう。
「何があった…話してみろ。」
土方に見透かされたような気がして、総司は黙った。
「黙ってちゃわからねぇだろ。」
「じゃあ話しますよ。さっき、なつがへ平助の手を引張って、部屋に入っていくのを見ちゃっ たんです。そしたら無償に腹が立って。土方さんなら私の気持ち分かってくれますよね?! なつに惚れてるなら…」
土方は何の事だ?といった表情をした。そしてすぐに思い出した。
(そうか、総司の中では俺はなつに惚れてる事になってんだな。これを使ってやろう。)
「土方さん?!人の話、聞いてます?!」
反応の無い土方に苛立ちを見せる総司。
「あぁ…悪い…。おい総司!俺は腹が立ったからなつを奪いに行く!」
突然訳の分からない事を言い出した土方。仕方なく、総司もそれに付いていくことにした。
突然、何の了承も無く開けられた平助の部屋の襖。あまりの音の大きさに身を縮めるなつと平助。ちょうど、お粥を口に運んでもらうところの平助だった。
「…ひ…土方さん……」
顔を引きつらせる平助。
「おう平助、どうした、風邪か?それともなつに看病してもらう口実か?」
土方は全てを見透かしたような声音で言った。
「ちょっと土方さん!病人に向かってそんな言い方する事ないでしょ?!」
「…病人か…。じゃあ、今日は皆で飲みに行くつもりだったがお前は病人なんだから無理だ な。もちろんなつも行くけどな。」
平助を脅すように言う土方。平助はもう泣きそうである。
「病人ひとり置いて行く訳にはいかないでしょ。あたしは残ります。」
「おなつちゃん、私は大丈夫だから…」
だんだん罪悪感を感じてきた平助。
「そうだよなぁ。平助も仮病なのになつを引き留める訳にはいかないよなぁ。」
「ちょっと土方さん!仮病なんて平助さんがあたしを騙すような真似する訳ないでしょ?!」
平助はもう黙っていられなかった。土方には仮病だとばれている。なつを騙したと言われればそうだ。素直に謝るしかない。
「ごめん!おなつちゃん!私、熱なんかないんだ。ただおなつちゃんをひとり占めしたくて… 私、おなつちゃんが好きなんだ!!」
謝るだけでなく、告白までしてしまった平助。突然の告白に戸惑うなつ。
「お前はどうなんだ…?なつ…。」
なつの頭に浮かぶのは、幼い頃から共に生活してきた総司だった。寝食を共にし、稽古も掃除もいたずらも、いつも一緒にしてきた。
近くに居すぎて気がつかなかった、総司への想い。
そうか…あたしは総司が好きなんだ……。
平助の告白で自分の想いに気付いたなつ。正直にありのままの気持ちを平助に話すことにした。