平助の嘘
なつの思いもよらぬ助言により、近藤は京都守護職松平容保侯に嘆願書を提出した。そして壬生浪士組は晴れて『京都守護職御預壬生浪士組』となったのである。
公に町の見回りができるようになった壬生浪士組。今日は平助が担当していた。
「平助さん、お帰りなさーい!」
玄関の掃除をしていたなつは、平助の姿を見つけると大声で手を振った。
「おなつちゃん!ただいま…//////////」
「どうしたの?平助さん、顔赤いけど…?熱でもあるの?」
平助のなつへの恋心、大概の人は知っているのだが、なつは全く気付いていなかった。そのなつに顔を覗き込まれ、ますます顔を赤くする平助。
「熱があったら…おなつちゃん、看病してくれる…?」
「当たり前でしょ!あたしは壬生浪士組のために働くの。隊士が風邪ひいたら看病するのが当 然でしょ!」
平助の頭に、自分だけを見てくれているなつが浮かんだ。熱を計るため、おでこに手を乗せるなつ。お粥をフーフーして口にはこんでくれるなつ。手を握ってくれるなつ。
どれも魅力的以外何ものでもなかった。
「私…熱があるみたいだ……」
平助は、嘘をついた。
「本当に?!こんなとこにいたら酷くなっちゃうよ!早く寝ないと!!」
なつには、平助の嘘を見抜けないという欠点もあるようだ。
なつは平助の手を引張り、平助の部屋へと入って行った。
それを偶然見てしまった男がひとり…。
(あれ…?なつ…平助の部屋に……何で…?)
嫉妬の心がフツフツと沸き起こる総司。
「…何でなつと平助が……」
総司の周りには負の空気が纏っていた。そんなことに気付かない哀れな男が、総司に声をかけてしまった。
「おーい総司!将棋でもやんねぇ?!」
お気楽な場を読めない左ノ助である。
「…やりません。」
「そんなこと言わずにやろうぜ〜?!俺、暇なんだよ。」
「私は暇じゃありませんから。」
「じゃあ一回だけ!やろうぜ〜!!」
左ノ助のしつこい誘いに、総司が、キレた。
「うるさいですねぇ!私は暇じゃないって言ってるでしょ!?左ノ助さんは日本語も分らない んですか?!これ以上言うと…斬りますよ…」
総司の右手は既に刀の柄を掴んでいる。
さすがの左ノ助も危険を感じたようだ。あっという間にその場を去って行った。