はじまり
「…何故お前がここにいる。」
近藤は苦い表情で目の前に居る少女に言った。
「先生達のお役に立ちたくて来ました。」
そう言った少女。この小説の主人公『なつ』。
彼女は幼い頃に試衛館の前に捨てられていた所、当時『島崎勝太』と名乗っていた近藤勇に拾われ、試衛館で育てられた。幼い頃から試衛館の門人達と一緒に稽古をし、そんじょそこらの男共よりは剣の腕があるのは近藤も認めていた。
近藤は、文久三年、上洛する将軍の警護の名目で集められた『浪士組』に参加し、試衛館の門人と共に京へ来ていた。『浪士組』をまとめる清川八郎という男は、京へ着いた途端に本来の『浪士組』の目的を翻し、朝廷のために働くと宣言したのだ。
それに反対した近藤率いる試衛館一派と水戸浪人の芹沢一派は『壬生浪士組』として京に残ったのであった。
なつはというと、江戸にいる時に連れて行ってくれと懇願したが、それを許してもらう事は出来なかった。しかし、虎視眈眈と狙っていた上京の機会を、『壬生浪士組』を結成したという近藤からの文で見出したのである。
「…で、お前は江戸へ帰るつもりはないんだな?」
「当たり前じゃないですか。帰れなんて言わしません。お願いです、近藤先生!炊事、洗濯、掃除何でもやります。だからここに置いて下さい!」
必死に願い出るなつに温かい言葉が飛んできた。
「良いんじゃねぇの?八木さんに世話になってばっかりだし、こいつに任せたら。」
ぶっきらぼうに言い放ったのは土方歳三。近藤の幼馴染みで試衛館の門人。なつとも共に生活してきた、兄のような存在。
「私もそれが良いと思いますよ。それに女中を雇うよりこちらの方が…」
井上源三郎。近藤の兄弟子だが、試衛館が大好きで門人として住み込んでいた。なつからすると父でもない、兄でもない、でもそれに並ぶくらい大好きな人間であった。
「土方さん!!源さん!!」
「ここは歳と源さんに免じて置いてやる。ただし、弱音は吐くなよ。」
「ありがとうございます!精一杯、皆さんのお役に立てるように頑張ります。」
こうしてなつは『壬生浪士組』の一員となる事ができたのである。