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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
1.死神少女
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3話:黒光りの鎧

 律儀に待ってくれていたテオと帰路につく。彼の家も有名とは言え、それほど高い地位ではないらしく、帰り道がすこしだけかぶる。とまあ、道がどろどろになる頃にはやはり別れているが。


「お前、何さらっと断るようなこと言ってんだよ。金なら俺ん家でだしてやるのに」

「え、無理だろ」

「大丈夫だって。親父、お前のこと大好きだから」


 おれの背中をばしばし叩くテオ。力が強いからなかなか痛い。テオの父親は軍人で、おれの父親の上司だか何だかだったらしく、時々おれたち姉弟のことを気にかけてくれていた。

 そもそも、ノルンでなんとか生活できるよう助くれていたのはテオの父親だ。テオの父親からのリヴィエ家の養子にならないかと申し出を、姉さんが断ったというのに、本当にたくさん助けてもらっている。


「でも」

「遠慮することないだろう? お前、レザリアだぞ? 学術院だぞ?」

「いや、その、上級士官学校の医学科にも興味あるしさ」


 遠慮もある。けれど、医学科に興味があるのも本音だ。それならわざわざお金のかかる学術院で勉強しなくてもいいのではないかと思ってしまう。


「お前、おれん家に来ない?」


 こいつは。おれの知識欲を良く知ってくれている。おれが元々、士官学校ではなくてレザリアの学術院に行きたかったことも知っている。だから遠慮しているだけに見えるのだろう。


「そこでソルおじさんに相談してみろ、だろう? でもいいよ。なんだか言われた事が夢みたいで判断能力にぶってるから」

「残念。親父、お前のこと気にしてたぞ?」


 テオの父親が気にしていた。姉さんのことだろうか。進路のことだろうか。はたまたなんとなくだろうか。テオの父親、ソルおじさんはいつだってそうだ。何を考えているのか全く分からない。

 行くべきか。いや、頭の中が処理しきれない。今日は一人で整理する時間が欲しい。


「そっか。そしたら、明日にでもテオの家寄るよ」

「おう。分かった。親父にも明日の夕方リクが来るってさって言っとくよ」


 地面が見える場所まで来た。じゃあな。手を振る。テオが去っていくのを少しだけ見届けると、おれは土の上に足をつく。

 踏み出した場所は、通学路から外されている裏道。


 道は狭いけれど、ここは人が少ない上にいい近道だ。二階建ての集合住宅が並んでいる風景は綺麗だと思うし、近いはずの景観となじめない学校も視界に入らない。


 さらには、ここを好んで通るのはその辺の平民ぐらいで、フェルセン家のお坊ちゃまみたいな面倒な貴族どもがいることはない。

 そもそも士官学生は通るなと近隣住民からの苦情があるから通ってはいけないのだ。けれど、別に検問みたいなものがある訳ではないから、通っても咎められることはない。おれ、静かだし。


 そう。大丈夫なはずなのだが、なぜか軍人がいる。胸のあたりにオリーブの葉をモチーフにした国章がほられた鎧をつけた場違いな軍人。

 毎日のようにここを通っていたから気付かれてしまったのだろうか。

 それにしても数が多すぎだ。たかが学生に引き返せと言うだけならば、多くても二人いれば足りるだろう。

 けれど、その軍人が目の前に五人もいる。そもそも、なぜ鎧など身につけているのだ。このレンガでできた静かな街に、黒光りする鎧は不釣り合いだ。

 ここで武装する必要性は何だ。もしかして犯罪者の取り締まりでもやっているのだろうか。


「リクハルド・ヒューリネン」


 誰だ。この人。こんな声の教官がいたか。いや、いないはずだ。それなら、何でおれの名前を軍人が知っている。

 テオみたいな貴族ならまだしも、おれのようなその辺の平民の名前を知っているはずがない。


「お前の処刑命令が出ている」

「処刑、命令?」


 どういう、ことだ。


「どうして」


 声が掠れて上手く出ない。

 逃げないと。逃げないと。逃げないと。


「お前は、ここにいることそのものが罪だ」


 殺されてしまう。

 振り向くといつのまにか背後もとられていた。

 周りには十人もの軍人。逃げ道がない。

 逃げないと。死にたくない。

 落ち着け。どうにかして突破する方法を考えろ。

 鞘がついたままの剣を構えた。

 前方から剣を突かれる。身をひるがえすように攻撃を避けると、後方から気配を感じとって屈んでくるりと一回転する。

 すると、目の前から喉元を狙う剣が飛び込んできたから、鞘のついたままの剣で受け止める。

 重い。このまま剣を棄てて逃げようか。いや、それは危ない。防ぐものがなくなってしまう。

 ひゅんっと矢の音が耳元でしたと思ったら、するどい痛みが右腕を襲った。

 からんと音がした。右手に力が入らない。

 まずい。右手が使えなければ、武器を使って抵抗などできない。

 さっと立ち上がると、陣形の崩れた場所を狙って走る。一か八か。早く逃げなければ確実に死ぬ。

 けれど、だめだったみたいだ。目の前にいる、黒光りする鎧を身につけた兵士。そしてぷらんと垂れ下がった右腕に触れる、長い刃。

 右脇腹が熱い。ワイシャツがぐしゃぐしゃになっていくのも分かる。支えがなくなって。

 動けない。さっきまで自由に動けていたのに、指一本さえ。

 叫びたかった。痛い。熱い。何で、と。もう、それすら叶わないのか。視界がかすむ。消えていく。何もかも、なくなって……。

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