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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
1.死神少女
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2話:シャルロ教官のペン


 訓練後、歴史。三時間の訓練の後に、だ。周りより鈍い方に分類されるおれはいつも怒鳴られる。

 何故だ。おれより鈍い奴はいるはずなのだが。今日は「筆記だけよくてもお前みたいなのろまが軍人になれるか!」と教官に言われた。おれは好きでそうしているわけではない。


 その良く分からない絡まれ方した後に、歴史だ。授業そのものは面白い。

 ただ、テストがひたすらに難しいのだ。そのひたすらに難しいテストが十日に一度やってくる。それで、今日はテストの返却日なわけだ。テスト直しをしなければならないと思うとげろが出てきそう。


「テスト返します」


 歴史担当であり、我がクラスの担当でもあるシャルロ教官だ。若くて綺麗だから、最初こそもてはやされていたが、今や鬼畜教官として恐れられている。


 今回の試験範囲は、コーク王国の成り立ち関連だから四十年から三十年前の話だったと思う。

 当時、トトモ王国と言われた王国でユノーレの乱が起きた。この乱によって、少数民族であるルエ族の王をたおして、ホチ族主体のコーク王国ができた。

 どうやら、トトモ王国が滅ぶ直前は、政治が乱れ、当時の首都ハールにおいては、ホチ族に対する大虐殺事件が起きたらしい。


 どこまでが本当かは知らないが、教官も姉さんもそう言っていたから、きっとそうなのだろう。


「リクハルド」


「はい」


 立ち上がって答案を受け取りに行くと、耳元でおめでとう、と言われた。どういうことだと思って答案を見ると、名前の横には百点と書かれて、小さなはなまるがついていた。

 他教科に比べて満点が難しいものだから、少しだけ嬉しい。


「返し終わりましたね。今回はいつもよりできは良かったけど、まだ理解が足りない人が多かったです。テスト直しをして下さい。次回、回収します。満点の人は別途課題だすから、放課後教官室へ来るように」


 では、授業を始めます。そう言ってはりきって王国の仕組みについて話しだす。今回も大変になりそうだな。


「おい、リク」


 隣に座っているのはテオ。武家として有名なリヴィエ家の跡継ぎで、笑顔と優しさで男女問わず人気を誇っているが、なぜか嫌われるおれと親しい。


「別途課題ってお前用だろ」

「そうだよ。他にもいると思うけど」

「いや、さっきぱらぱらって頭いい奴の答案見たけど、満点いなかったぞ?」

「お前、人の答案見るなよ。見つかったら面倒そうな奴、多いだろう?」

「まあ、見つからなければいいことだろう?」


 にやにやするテオ。思わずため息が出る。本当、人気者のテオ・リヴィエがすることか。


 いきなりペンが飛んできた。それは俺の額に向かってきている。避けられそうだが、後ろの席にはテオ目当てに座っているお嬢様。彼女にペンが当たったら大変だ。

 仕方なく、額でペンを受け止める。首がかくんとなった。思っていた以上に痛い。


「テオ! リクハルド! 集中しなさい!」


 怒鳴るシャルロ教官。額がじんじんする。人を馬鹿にしたような笑い声をあげる周りの学生。

 話していた自分も悪い。けれど、この空気は本当に耐えがたい。


 授業後、というよりも放課後。教室の長机に頬をつける。隣にはテオもいる。


「お前、人気者だな」

「笑い事じゃない!」


 けらけらと笑うテオ。性格良し。見た目良し。成績良し。家柄良し。非の打ち所はどこなのだろうと考えて出てきたことがない。


「いいじゃないか。座学一位。実技もとろいわりにはなかなかだし。本当、そういないよな、ここまで良くできた平民」

「シャルロ教官が学生に身分差別はありませんって言ってるだろう?」

「そう言ったって。お前の周りから見たらそうだろうよ、普通」


 それは否めない。もし本当に身分差別がないのであれば、おれに対して変に目をつける教官やクラスメイトも、シャルロ教官のように目をかけて下さる教官もいないだろう。


「なあ、リク」

「何?」

「まだラダさん帰ってこないのか?」

「姉さん? まだだよ。本当、どこにいるんだろうな」


 テーブルに調べ事をしてきますと置き手紙を置いて、突然姿を消して以来、家に帰ってこなくなった姉さん。軍でも休職届を出したまま行方を眩ませたらしく、どこへ行ったか分からないと言われた。


「本当に心当たりないのかよ」

「全然」

「リクに暗号を残していったとかないか?」

「まさか。姉さんはそんな手の込んだこと、必要に迫られなければしない」


 そういえば、今日の夢で「ユウルに逃げろ」と何度も言っていたがそれが姉さんの居場所を示している、ということは、ないか。

 姉さんが俺の夢に干渉できるように何かをしたと考えたくない。恐ろしいにも程がある。そんな非現実的なことがあってたまるか。


 ガラガラ。突然、教室の扉が開いた。

 誰か忘れ物でも取りにきたのかと思ったが、違ったらしい。そこに立っているのは、シャルロ教官だ。


「リクハルド!」


 まずい。呼び出し食らっていたことをすっかり忘れていた。


 別途課題を出されて終わりかと思ったら、端にあるテーブルに座らされた。何かをした覚えは全くないのだが。


「リクハルド、この学習量で満足している?」

「士官学校を卒業すれば兵として働けるのですから、それに関しては十分すぎる待遇だと思っています」

「本気でそう思っているの?」

「ええ。生活していくには光栄な事ですから」

「そう。お前がその気なら、レザリアの学術院へ推薦を出そうと思っていたのに」


 一瞬息を呑んだ。

 士官学校で優秀な学生が行くことがあると訊いたことはあったが、本当だったのか。

 学術都市、レザリア。学問を学ぶ上では最高峰の都市だ。学術院を卒業しても院に残って研究することができると聞く。

 医学、薬草学、文学。士官学校どころか他地域の学術院でも得ることのできない知識があの都市にはたくさん眠っているのだ。

 行ってみたい。そこで勉強したい。もっとたくさんのことを見聞きして調べたい。

 ただ、軍所属のはずの姉さんは休職してから一年間行方知らず。姉さんの稼ぎがあればまた別であったが、残念ながらそれは期待ができない。


 シャルロ教官がおれの目をじっと見つめてくるから思わず反らしてしまった。そう言ってくれることもありがたいが、金がないのは致命的な問題だ。


「お金が、ありませんから」

「だろうと思って、上級士官学校への推薦状も用意しておいた。あそこなら今の給料よりは上がる。とりあえず渡しておくから、考えておいて」

「はい。ありがとうございます」


 ああ。胸がはちきれんばかりに嬉しいとはこういうことを言うのか。これほどまで喜ばしいことはそうないに決まっている。

 推薦状が出れば、上級士官学校への進学は決まったようなものだ。推薦状がなくても試験を受ければいいだけのことであるが、合格は保障されない。

 上級士官学校に行かなければ就けないような高級職や技能職、富裕層と変わらない生活への憧れもある。

 ただ、それよりも、学べる期間も量も多いわけではないけれど、給料貰える上に、この知識欲がさらに満たされることがこの上なく嬉しい。

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