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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
4.幻の都
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3話:ハール遺跡



 一時間歩いたか歩かないか。そのぐらい経つ頃には、すでにハール遺跡にいた。エリサもおれもリーザ教官が担当している歴史科の特別講義の受講生ということらしい。紺の軍服を着て、とりあえずその辺にある石を見ている。


 さっきまで城など、当時の暮らしをあからさまに悪者にしたような展示物を見ていた。面白いが、国が押し付けようとする倫理観が本当に邪魔だった。

 今いる立ち入り禁止区域は、何もいじられていないので、面白い。こういうところを一般公開すればいいものを。


「ハールが城を囲んで円形になっているのは、城壁を見た通り。ちなみに城壁の外も円形に広がっていっている都市はここぐらいしかない。それだけ整っているのはトトモ王国が潤っていたから。中央部から少し離れたところには歴史的保存地区、まあこのあたりのことなんだけど。都が完成した当初から保たれてる地域も存在した。だから、石が他の地域と違う……」


 どうしてこの付近を、ああ、宗教問題か。トトモ王国が積極的に信仰していた多神教に対し、コーク王国は一神教の新興宗教への積極的改宗を訴えている。

 教会みたいな建物が近くにあるから見せないようにしているのだろう。


「ねえ」

「何、エリサ」

「講義、疲れた」

「あくまで学生身分で建造物の見学に来てるってことになってるんだ。とりあえず聞いとけよ」

「うううう。石の違いがよくわかんない」

「石そのものというより、装飾が違うんだよ」

「…………あ、言われてみれば」


「シャルロ!」

「はい。上官殿!」


 さっきまで話していたシャルロ教官が敬礼をする。おれもその後ろでエリサと敬礼をした。手が湿っている。この緊張感は実地訓練以来だ。体を動かしたら抹殺されそうで怖い。


「ルエ族の死体が二体手に入った。これから運ぶのを学生たちにやらせたい。いいな」

「御意」


 ルエ族の死体が手に入ったから運ぶ。どういうことだ。これは故意にルエ族の血液を持った人間が殺されているということになる。何かをする為に。母さんも姉さんもカーラさんもきっと理由があってしくまれて殺された。

 手が震えた。知らなくていいことだったのかもしれない。けれど、ここで引き下がるわけにはいかない。





 非公開の遺構を見せているのだから手伝えという魂胆らしい。入り口から逆方向のところに赤毛の人の遺体が二体、担架の上に寝かされていた。これの一体をおれたちが運べと言う。嫌な作業だ。

 近くにいる教官がさっきの上官殿と呼ばれている人と話している。ありがとうございます、だのなんだの言っているが何のことだろう。

 運ぼうとして担架を持ち上げた時に教官が耳元に寄ってきた。


「上級士官学校の医学科への推薦生だって上官に説明しておいたから」


 教官はどうしてそのようなほらを吹きこんだのだろう。いや、まあ、おれが上級士官学校へ推薦されていたことは確かであるが。

 上官がおれたちの前を歩く。それについていく。するとすぐに近くの建物に入っていった。


 石の建築物で溢れているハール遺跡の中ではひときわ浮いてしまっている。最近建てられたものであろうから仕方がないのだろうが。

 建物の中は手術台が三つ。そのうちの入り口から遠い奥の手術台に、おれとエリサは遺体を運んだ。


「君」


 数人いる医者のうち一人が話しかける。ああ、そういえば、おれは医学科への推薦が決まっているのだった。どうやら若いらしく、姉さんやカーラさんとあまり歳は変わらなさそうに見える。


「はい」

「壁側にいてくれ。きちんと観察できるようにするから」


 観察。なるほど。あれ、なんで、教官はわざわざこれを観察させようとしたのだろう。隣にいるエリサの顔色が悪い。


「大丈夫か、エリサ」

「大丈夫。私もちゃんとこの目で見たいことだから」


 男の人だったのだろうか。おれより少し上の人だろう。運んできたその人の胸が刃物で切られた。そうしたら、医者はトンカチを取り出した。それで肋骨を思い切りたたいている。ばきっと音がして骨が取り出された。


 また刃物を持っている。何をしているのか頑張って覗き込んでみる。すると心臓を切っていた。

 解剖しているのだろうか。これから実験でもしようとしているのだろうか。よく分からないが、いいことではないことが分かる。


 医者が刃物を置くと、何やら手で探っている。一人の医者が心臓の傷口を広げ、もう一人の医者が男の心臓の中に手を突っ込んで。


 しばらくすると、ころん、と皿の上に何かが転がされた。医者たちは、男のまわりで伸びをしたり首をまわしたりしている。


「学生の二人」

「はい」

「近くに池がある。俺と一緒にこれを持って来てくれ」


 エリサもついてくる。おれは得体のしれない皿の上に乗っかっているこれを持って外に出る。

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