2話:シャルロ教官
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日が傾いたころやっと町についた。ハールに一番近い町、ウルクだ。トトモ王国時代にハールに住んでいた人たちが国に追い出されて作った町らしい。
その話を聴いたのはさっきのことだが。商人のおばあさんにハール遺跡の見学に行くと言ったら、私達が住んでいたハールをお前はなんだと思っているんだと怒られた。
思えばユウルを出てから大した休みも取らず、ひたすらに歩いてきた。だからおばあさんの怒号を聞きながら夢の世界へと旅立ってしまわぬようにと頑張るのが精一杯だった。本当、運がない。
ふらつく足で宿屋へ入る。今日は、少し奮発して大部屋ではなく、ツインにしてみた。さすがツイン。個人のスペースが広いし、大部屋よりずっと静かだ。
エリサは少し驚いていたが、もう目と鼻の先にハールがあるのだ。そこに答えがあるかどうかは知らないが、たまには奮発しても罰は当たらないだろう。
ひどく眠い。まだ寝るには早い時間だが、奥側にあるベッドで寝た。
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気がついたら空が暁色だった。少し肌寒い。寝すぎてしまったらしく、体のあちこちが少し痛い。
鞄の中から軍服を取り出した。軍絡みの調べ事。もしかしたら役に立つかもしれない。と思ってもってきたが、役に立てる時が来た。
今から着ても脱がなければいけないから意味ないのだが、なんだか懐かしくて袖を通してみる。ワイシャツに袖を通して、紺色の制服をその上から着る。ボタンをして紺のズボンをはいて。
学生身分を示す校章と国家への忠誠を表す国章のバッチを左胸のポケットにつける。
「……リク、なにやってんの?」
目を丸くしたエリサが得体のしれないものとでも言いたげな顔をしておれを見ている。
「懐かしくなったんだ。まあ、ハールで使おうと思ってるから後でまた着るんだけどさ」
「…………」
「あ、いや、まあ。さ、さて、着替えるか!」
エリサの視線が痛い。
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外へ出ようとしたら、軍人がいた。聞き覚えのある声。その人物がこちらに向かって歩いてくる。まずい。
「リク。上級学校への推薦の件そろそろ締切なんだけどって、今は犯罪者か」
「きょ、教官?」
歴史科と我らが担任、シャルロ教官。なぜここにいるのだ。
「処刑命令。春休み中だから元担任の私が責任持てってね」
逃げなければ。せっかくハールの近くまできたというのに、ここで浄化など絶対にしたくない。
それにしても変だ。なぜ詰め寄って来ない。腕を掴まない。そういう作戦ということはこの教官に限ってない。
「少し話す時間が欲しい。あなたの生い立ちについて、ね」
さっと腕を掴まれる。そして宿屋を出ると、小さな路地に入った。エリサはついてこない。
「まず訊く。あなたの父親はアーロン少佐」
「はい」
「それと、ここにいるっていう事は、ハール遺跡に行くということ?」
「はい」
「そう。何故?」
「なぜ殺されそうになったのか、答えを見つける為です」
シャルロ教官が黙ってしまう。なにかまずいことでもあったのだろうか。と、まて。変なこと言ってしまったらきっとシャルロ教官にここで殺されてしまう。逃げよう。
「協力する」
「へ」
「新米兵だった頃にお世話になったの。リクハルドの父さんにね。まあ、そのアーロン少佐は謀反を起こして処刑されたんだけど」
「そう、ですか」
父さんが謀反。初耳だ。きっとそれは、姉さんがおれに教えてくれなかったことだろう。母さんの記憶がないのだ。だからきっと気を使ってくれていたのであろう。
「知ってた?」
「いえ。初めて知ったので驚いています。でも、父さんとの記憶もないのでよく分からないです」
「本当にアーロン少佐とそっくり。見た目から思考回路まで」
「そう、なんですか」
「ええ。本当に。何から何まで」
謀反を起こした父親に。そこまで似ていたら、おれも何かをきっかけにして謀反でも起こすような人間なのだろうか。いやないか。それほどの行動力あったことがない。
父さんと母さん。おれはきっと無意識のうちに忘れようとしていたのか。何が起こっているのだろう。どうして国絡みでおれの家族は死んでいるのだろう。
姉さんが導き出そうとした答えを確かめようとした場所、ハール。何があるのだろう。ここで求めていた答えが見つかればいいのであるが。
「それと、ソル・リヴィエ少将から伝言」
テオの父親だ。あの人はどうもつかみどころというものがない。何を考えているのか全く分からないので少し怖い。
「お前は後悔しないか? と伝えておいてくれって」
リヴィエ少将は何を言いたいのだろう。




