1話:花畑
森を抜けるのは本当に早かった。アルフが道案内してくれたおかげだ。来るときは迷いに迷って五日ぐらいかかったというのに、半日ぐらいで抜けられた。
目指すはハール。ここからであれば、あと三日もしないうちにつくだろう。途中にハール近郊の村もあるから野宿もしなくていい。今までの生活よりずっと楽な旅になりそうだ。まあ、歩き通しというのは疲れるが。
「リク」
「何」
「ちょっと用事!」
「へ?」
ずんずん森の中へ入っていくエリサ。さっきの道より随分と足場が悪い。どこいくんだよ。そう言って掴まれた手首を振りほどいても、きっとましな答えが返ってくるとも思えない。
だからそのままただエリサに連れられていくことにした。やけに力が強い。着ているシャツもなんだか湿っぽい。今日はそれほど暑くないはずであるが。
※
気がついたら夕暮れで、周りは花畑だった。真ん中に立っているのは十字架。そこら中に咲いているのはひなげしの花。
花畑の真ん中で手を合わせるエリサ。
「ここは十六年前、村だった」
エリサの声が震えている。泣いているのか。
「私はまだ死神なんかじゃなくてその時は、二人の子どもがいた。夫は軍人だったんだけど、殉職しててね。上はカーラ。下の子はアルフ。六つも離れてたからお姉ちゃんがアルフをよく面倒見てくれていてねえ」
「なあ」
「何」
「エリサって人間だったの?」
「は? 何言ってるの?」
「いや、だって」
意味分からない。そもそも死神は死神として生を受けるものだと思っていた。エリサに死神の父親がいて母親がいて生まれてくるものだとてっきり。どうやら違うらしい。
「子連れのエリサなんて想像できないし」
「うるさいわね! その時は私だって今の倍の年齢だったわよ」
「あ、ああ、まあ。ねえ、もしかしてカーラさんってこの日記を渡してくれた? ちなみにアルフはユウルにいた」
「そうよ。で、話戻すんだけど。私はフィスで働いてたの。で、リクみたいに突然殺されて、ジャレットさんに故郷に帰りたいと願ったのよ」
「ジャレットさんって?」
一瞬エリサが困った顔をしたような気がする。ああ、そうよね、と大げさに笑ってみせるエリサ。そういうしぐさをされると気になってしまう。
「ああ、私についてくれた死神。その時は私より少し上の紳士って感じだった。今じゃあただのじじいだけどね」
「で、どうだったんだ?」
「故郷のここは、もう灰になってた」
それでね。そこからエリサの言葉が続かなかった。話そうか迷っているのか。それとも単につらい思い出があって話せないのだろうか。
「やっぱりなんでもない」
ここまできて何も言われないと、なんだかむずかゆい。けれど、問いただすこともできない。
「行くか」
「どこへ?」
「ハール。姉さん、母さんが殺された理由を追っていたんだ。それってきっと姉さんが死んだ理由と、おれが追われてる理由と一緒なんじゃないかって思うんだ」
「あんた怖くないの? 知ったら浄化するのよ」
「…………あ」
そうだ。おれはもうすでに死んでいて、願いが叶ったら浄化してしまう。追われているが、こうしてエリサと二人で旅をする生活も悪くない。
もっと知りたいことがたくさんあって、もっと見たいものもたくさんあって。そう考えると、このまま二人でもっと旅生活を続けてもいいのではないかと思う。けれど。
「それでもおれはこのまま突き進む。知りたいんじゃない。知らないといけないんだ。だから、ハールへ急ごう」
来た道を戻る。足場が悪いが一本道だ。一度通った道だからきっと大丈夫だ。暗いがなんとかなりそうだ。




