閑話3:エリサの悲しみ
「分かってるのよ」
エリサはそう呟いた。
エリサは死神だ。
自ら死神になることを望んでしまった。
エリサは死神になったことを後悔していない。娘のカーラと息子のアルフの成長を見ることができた上に、話すこともできたからだ。
しかし、エリサが死神になってしまった手前、あなたの母親だったのよとは言えなかった。
話したところで、死者が浄化されれば死神は存在していたという記憶も消える。エリサからしたらずっと見守ってきた可愛い子どもであるが、二人からすれば、「知らない子」なのである。
カーラもアルフも立派に育った。殺されずに成長できるよう、見守り続けた。
カーラが浄化され新しい命になることは悲しかった。もうカーラという存在に出会うことが不可能だからである。ただ、それ以上に悲しいこともあった。
カーラは自分の血のことを知っていた。同じ血を持つラダと二人でかぎまわり、真相を見つけてしまった。そして、革命を起こそうとしたのである。
エリサは全てを知っていた。中心人物となったラダの死神として旅をした途中に全てを聴いたからだ。
その時、なぜルエ族であるから惨殺されたのかも知った。それはずっとエリサが探し続けたものだった。
エリサはリクと同じことを考えていた。ずっと探していたのだ。夫が、自分が殺された理由を。
自分が死んだ時、なぜ理不尽に殺されたのか知ることを望もうとも思った。しかし、それ以上に子どものことが心配だった。
生きて生きて生き抜いて欲しかった。自分みたいに理不尽に殺される環境に子どもを置きたくなかった。親のいない子どもとして苦労をさせたくなかった。
だから、ジャレットに願った。子どもたちをユウルの母の元に届けたいと。
その願いは叶った。カーラは外へ出ていってしまったが、それでも大きく育ってくれた。
母としての願いは叶ったはずだった。
けれど、もやもやが残った。
エリサは死神の伝承を知っていた。死者の未練が強い時、死神になると。
エリサはジャレットに願った。私はどうしても理不尽に殺された理由を知りたい、と。その為に死神になりたい、と。
ジャレットは困った顔をした。止めておきなさい、と。それでもエリサは懇願した。
今、リクハルドと一緒にいるのは幸運だったのかもしれない。
エリサは知っている。実際に見ていないだけだ。言葉で聞いただけだからエリサには実感がない。自分の中できちんと答えが出た、とするにはリクを最期まで見届けたかった。
しかし、怖かった。知っていてあえて世の中の闇に飛び込んでいくことが。
そして、闇の先にあるのはリクハルドの浄化だ。リクハルドは現実を受け入れるのだろうか。エリサには分からない。
また、もやもやした。自分はどうしたいのか、そう考えてしまう。
ただ、エリサは分かっていた。死者について願いを叶えることが死神だ。死神であるエリサには、自分のこの先を選ぶことができないことを。




