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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
3.隠れた場所
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5話:ラダの日記



 食事をもらった後、長の家へ通された。広々とした家。どうやら二階建てらしい。階段の上へ子ども達が駆け上がっていった。


「こんなに親切にしてもらい本当にありがとうございます」

「…………!」


 エリサの顔を見て長は凍った。皺の一本さえ動かない。エリサは顔を逸らす。どうやら知り合いらしい。ああ、ここは居づらい。


「お前、私の娘の生き写しみたいだ」

「あの……」

「申し訳ない。お前は、おそらくリアの息子だろう。本当そっくりな顔立ちしているな」


 さらりという長。母さんと顔立ちが似ていると言われても、母さんの顔を知らないからどうにも言えない。


「リクと申します。隣にいるのはエリサです」


 また長が驚いているが、いちいちつっこんでいたら日が暮れてしまう。


「お願いがあるのですが……」

「何だ」

「もう数日ここにいても構わないでしょうか」

「構わん。お前のおかげで獅子鍋が食べれたしな。空いた小屋を好きに使ってくれ」


 あまりのあっけなさに逆に驚いた。もっとこう、早く出ていけみたいな感じになると思っていたから。





 エリサがいる。そして、道案内してくれたおれと同い年ぐらいの少年がいる。さっき名前を訊いたらアルフというらしい。一人用の小屋だと思うのだが、なぜこうなっている。狭い。


「なあ、二人ともカーラ姉のことなんで知ってんの?」


 どうやらカーラさんの弟らしい。よくみてみると、顔立ちがどことなく似ている。ちょっとエリサにも似ている気がするが、それは気のせいだろう。


「おれの姉さんの友達。士官学校でも随分お世話になった。隣にいるエリサはおれの同期」

「え、お前ら」


 あきらかに目つきを変える少年。懐で握っているのは、ああ。短剣か。


「もしこの村を襲おうとするなら、今ここで剣を持ってないのは不自然だし、森の中でさまようなんて間の抜けたことはしない」

「そうよ。そもそも、頭だけはいいこいつが二人で敵地に乗り込むようなことしないし」

「それとさ。おれの名前、リクハルド・ヒューリネン」


 あ。驚いた顔で彼はこちらを見る。そう、全く意味の解らない理由で反逆者として殺されたカーラさんと同じ罪の人間。


「国王から言わせれば国家の反逆因子。こんな大々的に探されてるから除籍されてるだろうし。軍との関係はまあ、嬉しくない感じになったし」


 少年の手が短剣から離れる。カーラさんと関係がある。きっとそれが軍人同士の結びつきだと分かっていたのだろう。


 ここが軍に見つかってはまずいと判断したらしい。鋭い。さすがカーラさんの弟と言ったところか。いやまあ、カーラさんの弟にしては随分と真っ直ぐそうな性格に思うが。


「悪い。ルエの血を引いてる人間が、何人も意味が分からない理由で殺されてるからな」


 何人も、か。どうしてなのだろう。ああ、そういえばおれもルエの血を引いている。おれが軍に好かれていることにもつながるのだろうか。


「なあ、ここにかたまって住んでいて大丈夫なのか? もしここが見つかってしまったら」

「その為の結界だ。町の中央の紅い石があっただろう?」

「ああ。あの大きな」

「あれが結界を張ってる装置だ。この町は見えないんだ。あれが壊れない限り見つかることはない」


 ユウルへ逃げなさい。旅に出る少し前に言われた姉さんの言葉。ルエの血を引くおれが殺されないようにここへ逃げて暮らせということだったのだろう。

 ただ、なぜ、ルエ族という理由で殺されなければならないのだろう。


「なあ。なんで殺すんだろう」

「トトモで起こった虐殺の報復だろう。それ以外に考えられない」

「……じゃあ、ルエ族をせん滅しろと何で国は言わないんだろう。大人子ども関係なくってさ」

「じゃあ、リクは何だと思うの?」

「分かってたらエリサと旅なんてしてないだろ」

「まあ、そうだけど」


 ここにくれば何とかなると思っていたが、どうやら大きなヒントになるようなことを見つけるのは難しそうだ。

 残った手がかりと言えば、日記か。母さんの暗号だらけの日記は読んだ。ノートの端に書かれた姉さんのメモ書きもだ。


 残るは姉さんの数冊に渡って書かれた日記。姉さんの死亡通知が軍から来て、ずっと読むのを避けていた。

 ただ、これはヒントになる。カーラさんが、持ってきてくれた時、きちんと読みなさいと言ったのだ。だから、きっと。





 もう、無我夢中だった。姉さんの旅日記はどこで何を食べたとか、カーラさんと遊んだとか。内容は本当に他愛のないことだと思う。

 そう。ただ、姉さんの日記だ。やはり、表面上はすらすら読めるが、きちんと読もうとすると、一ページ読むのにかなりの時間かかってしまう。


 姉さんが書いていたのはこの旅に出た理由。そして、旅の中での心境の変化と、国王弑虐(しいぎゃく)の為の準備についてだった。


 姉さんは、母さんと父さんが殺された理由を知らなかった。リヴィエ少将に訊いても濁されるだけ。それならば、と姉さんは諜報の仕事を上手く使って母さんと父さんが死んだ理由をさぐっていたようだ。


 所々うまく読めないところがあったが、父さんが王宮に呼び出され帰ってこなくなった理由を調べあげて、ルエ族、それも大人への理不尽な殺害を行ったということが分かったらしい。


 父さんが殺された理由に関しては上手く読み取れなかったが、ルエ族の大人を殺害して、死体を集めていることは分かった。


 ページがどんどんめくられる。表面の日記を読むと、姉さんが旅を楽しんでいた様子が伝わってくる。


 それは突然見えた。「ハールへ答え合わせに行く」という言葉。ハールはトトモ王国時代の首都。遺跡がまだ残っているはずだが、中心部は立ち入り禁止になっている。どうしてだろう。何かあるのだろうか。


 そう考えたら、答えが書いてあろう日記をこれ以上読めなかった。読んでしまったら答えを知ってしまう。おれが望んでいたのは、きちんとこの目で見て理解することだ。


 それなら、やることは一つ。


「リク、夜食持って……」

「エリサ!」


 びくん、とエリサの肩が跳ね上がった。随分と驚いたらしい。だが、まあ、いい。


「ハールに行こう!」

「こんな時間にやめなさいよ。みんな寝てるのよ!」

「……ごめん」

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