3話:最期まで
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カーラさんに連れられて行くと、たくさんの木でできた十字架があった。すたすたとカーラさんはその中を歩く。その後に続いて歩いていると、カーラさんは真新しい十字架の前で止まった。
そこには姉さんの名前と日付が掘られている。
姉さんが、死んだ。
姉さんがどうして死んでいるのだ。何かの間違いだ。何かの。あれだけ何でもできる姉さんが、死ぬはずなどない。
「大丈夫? りっくん」
視界が歪んでいるのは涙のせいか。大丈夫ですなど答えられない。
息がうまく吸えない。
突然書き置き残していなくなって。一年も音沙汰ないと思ったら、勝手に死んで。何がしたかったんだ。姉さん。
姉さん。どうして。姉さんは、たった一人の家族じゃないか。なんで、おれをおいてどんどん行ってしまったのだ。どうして。
気がついたら、目の前にはジャレットさんとエリサの姿があった。心配してくれているらしい。
「すいません」
「リク君。謝ることないだろう」
そう言って背中をさすってくれるジャレットさん。そう言ってくれる、そうやってさすってくれるから、申し訳なく思う。
姉さんはどうして死んだのか。崖で足でも滑らせたか。疫病にでもかかってしまったか。
「姉さん、どうして」
「…………」
うつむくカーラさん。どうして言ってくれないのだ。理由ぐらい知っていいことだろう。唯一の肉親が死んだ理由、ぐらい。
「りっくん。受け入れられるよね。どんなに残酷でも」
「どういうことですか?」
「らーやんは」
聴きたくない。ふとそんな思いがよぎった。けれど、姉さんの最期だ。それはまあ、嫌な予感しかしない。それでも知っていなければならないのだと思う。
「私も良くは知らない。軍の噂では、牢屋でひたすら殴られて殺されたって」
それって秘密裏に殺害する時の最高刑ではないか。姉さん、何をしたのだ。
「あのね。らーやん。自分のルーツについて調べてたんだ。だからここに来たがってた。らーやんのお母さんがずっとつけてた日記読んでさ。まあ、それは本人が私に言ったことじゃないんだけど」
そう言ってカーラさんは数冊のノートをくれた。一番上のノートのページをまくってみる。どうやら日記のようだ。綺麗な字が書きこまれている。
「これは、りっくんのお母さんとらーやんの日記。この日記を渡されて、それから数日後。らーやんはパテカトルで軍の司令官に捕まったの。国家反逆罪、でね」
「なんでそんなことに」
しばらく誰も口を開かなかった。誤魔化さないでほしい。どれだけ重くてどうしようもないことであっても。姉さんが殺された理由はきっと、自分が探している答えに繋がるはずだ。
「リク」
この重苦しい空気の中、口を開いたのはエリサだった。エリサも目を伏せっている。
「私はラダとお別れを言う旅をしてたの。死神として。彼女はこの国を脅かすような罪人だったわ。国家の重大秘密の漏洩。それと国王の弑逆未遂事件。両親の復讐の為にね。でも、敵わなかった。彼女は全てを調べあげて、味方も作った。けれど、だめだったのよ」
「それは……?」
「彼女が少しずつ話してくれた」
姉さん、どうして。
そう言いたかった。姉さんは優しい人だった。大人で強くて、誰よりも大きく見えた。その姉さんが復讐の為に
国家を揺るがす大事件を起こそうとした。どうしてだろう。
ただ、それ以上に疑問だったのが、秘密裏に姉さんを消去しようとした国王側だ。こういった事件であればもみ消すどころか、普通に公開処刑でも行うだろうに。
なぜ、この事件を国は明るみにしなかったのだろう。そして、姉さんが見つけ出した真実とは何を指しているのだろう。
きっとこのことは、母さんの死から始まっている。姉さんが知っていたこと、全て調べなければならなそうだ。
「これね、らーやんからりっくんに渡してって言われたものなんだ」
カーラさんが涙声だ。顔を上げると、カーラさんが透けていた。カーラさんは確かに目の前にいる。ただもう消えかかっていると言えばいいか。
カーラさんの手がおれの手を包み込んだ。ぬくもりを感じる。けれど、普通なら隠れて見えないはずのおれの手が見える。さらには、ノートの上に垂れた涙はシミを作らない。
「ジャレットさん! カーラさんが!」
「リク君。これが浄化だ」
「浄化って……!」
このままでは、カーラさんまでいなくなってしまう。一緒に旅をしたカーラさんがいなくなる。もう一人の姉だと言っても過言ではないカーラさんまで。おれの目の前から去っていってしまう。
「何言ってんのよ。あんただっていつかこうやって浄化するんだからね!」
「りっくん」
泣いているのに、どうしてカーラさんはこんなにも笑顔なのだろう。怖いはずだというのに、悲しいはずだというのに、なぜ。
「私ね、墓参りが願いだって言ったでしょ? あれ、嘘。私の願いはこれをりっくんに届けることだった。でもね、ここに暮らしてる、祖母や幼い兄弟たちが気がかりでどうしても様子が見たくて。嘘ついて渡すの先延ばしにしてたの。ごめんね」
カーラさんのぬくもりがどんどん失われていく。もうカーラさんは薄くて目を凝らしてやっと見えるぐらいになっていた。
涙が止まらない。カーラさんが頭を撫でてくれる。泣かないで、と言いながら。頭が触られている感覚はもうない。
「りっくん。そこにはりっくんが探してる答えへのヒントが書いてあるはず。ごめんね、渡すの遅くなって」
「カーラさん! 何を言ってるんですか! いなくならないでくださいよ! お願いですから!」
「カーラ。もう時間だ」
カーラさんの口が動いた。声が出ていないから何を言ったか分からない。ただ、カーラさんはぼろぼろに涙を流しているけれど笑顔だ。
そして、目の前で、ジャレットさんの手を取って消えた。
どうしてカーラさんは笑顔でいなくなってしまったのだろう。




