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君と歩くビフレスト  作者: 三池ゆず
2.ユウルを探して
13/29

4話:隠れ里へ


 二日間、ほとんど寝て過ごしたおれをカーラさんはずっと面倒見てくれた。と言っても、たまにジャレットさんやエリサと交代はしていたが。


「あの」

「もう大丈夫かな。疲れが溜まったところであれだけ強力な施術を受けたから、もっと弱るんじゃないかってジャットさん心配してたけど、よかった」


 それはありがたい話だけれど、訊かなければ。カーラさんならきっと知っている。なんとなくそういう気がしていた。ずっと訊きそびれていたが。


「あ、あの。訊きたいことがあって」

「何? でも、りっくんみたいな優秀な士官学生に答えられることはないと思うんだけどなあ」

「ユウルって知っていますか?」

「え?」


 目をぱちぱちさせておれを見るカーラさん。調度よいのか、悪いタイミングなのか、買い物を終えたエリサとジャレットさんが、部屋の中に入ってきた。


「何それ? ユウル?」


 絶対に知っている。表情はあまり変わっていないが、変な間が空いた。カーラさんが教えたくないような場所。そこは何なのだ。


「カーラさん、知っていますよね」

「まさか。知らないよ、そんな地名。聞いたこともない」


 地名。そう、ユウルは地名だ。しかし、おれはカーラさんに向かってユウルが地名だとは全く言っていない。

 なるほど。焦るとカーラさんでもかまにかかるのか。


「カーラさん」

「な、何」

「何、嘘をつくようなこともないだろう、カーラ」

「じゃ、ジャットさん!」


 カーラさんが驚く。しらをきり通そうとしていたが、不意打ちを食らったからだろうか。その驚いたままのカーラさんを尻目に、ジャレットさんは続ける。


「なんなら連れて行ってあげればいいじゃないか。カーラにとっても目的地はそこだろう?」

「事情によるよ。あそこは、本来なら外から人を入れることはできないもの」

「ねえ、ユウルってルエの人達が住んでるの?」


 理由を言おうとした時、エリサがそう言った。少し驚く。


「何言ってるの?」

「何って、死神が使えない魔術をあんたが使えるじゃない。それってルエの血が通ってるってことじゃない。だから!」


 エリサが頭を下げる。綺麗に九十度曲がっている。いつも粗暴なエリサがやっていると考えると笑ってしまいそうだ。しかし、この緊迫した空気では笑えない。


「連れてって! どうしても会いたい人はきっとまだそこにいるの。お願い!」


 笑いたかったが、その気持ちもこの言葉で引っ込んでしまった。エリサが行きたい。そこに会いたい人がいる。どういうことだ。エリサは死神だ。いやまあ、死神でも知り合いはいるか。

 いやいや。そう思っている場合じゃない。理由を言って乗ってしまおう。ひとりに頼まれるより複数人に頼まれたほうが絶対に断れない。


「お、おれからもお願いします。姉さんが夢でユウルに逃げろって言っていたんです。すごくばかばかしい理由かもしれないけど、おれが追われている理由を知る手掛かりかもしれないんです」


 おれもエリサの隣で頭を下げる。ただ知りたいだけ。他人の気持ちを考えない、自分の欲の為の発言。それでも必死だ。知りたい。知らなければならない。この思いは強い。


「エリー、りっくん」


 しばらく沈黙が続く。カーラさんは難しい顔をしている。それだけそこを教えるのが嫌なのだろう。ルエ族の隠れ里だからだろうか。


「カーラ。この子にはルエの血が流れている。それほど警戒することもないじゃないか」


 ジャレットさんだ。穏やかで優しくて包み込むような声。でも、凛としていて強くてカーラさんを説得していることも伝わってくる。


「そ、そうだね。明日には、みんなで発とう」


 エリサの目がきらきらしている。ジャレットさんが柔和な笑みでおれに笑いかけてくれたので、おれもにっと笑ってみせた。カーラさんもさっきまではひどく拒んでいたのに、なぜか笑顔だ。

 よかった。やっと、姉さんが言っていたユウルに向かうことができる。きっとなぜそこに逃げろと言ったのかも分かるだろう。

 姉さんが言っていたユウル。どうしても国がおれを殺したい理由。全く分からないことだらけだ。とは言っても、ユウルがルエ族の隠れ里だということぐらいは分かるが。


 この先、どうなるのだろう。全く想像もつかない。




 剣は研いだ。荷物と残金を確認した。体調もカーラさんいわく万全。周りにはジャレットさん、カーラさん、帽子をかぶったエリサ。行先はとりあえず経済都市であるフィス。


 そして目の前には野生の猫。大きくて黒くて獰猛な猫。そう、猫だ。パンサーという種類の猫。姿勢を低くして尻を振っている。それが三体。

 周りは平原。隠れられるような場所はない。良く晴れているから視界良好だ。そうだ。とても視界良好。この状況では、逃げられない。どうやって楽をしよう。


「あの」

「りっくん。やってしまいなさい!」

「カーラさん、おれより運動能力ありますよね?」


 猫が一体とびかかってくる。カーラさんとの間に入ってきたのを横に避ける。続いて、おれを一体、カーラさんを一体、狙い澄ましたように襲ってくる。

 最初に飛び込んできた奴がまたおれにくる。上手いこと避けたが、草に足を取られて転んでしまった。

 まずい。またおれに向かって飛び込んでくる猫。とっさに立ち上がって避けられたから良かったが。まさかこんなことで転ぶなど普段ないから驚いた。

 ああ、とことんついていない。昨日は雨が降っていたみたいだ。おかげさまではいていたズボンが濡れてしまった。

 待てよ。水で草原が濡れている。それならば、エリサの力が広範囲に広がるのではないか。


「エリサ! 雷を起こしてくれないか?」

「どこ狙えばいい?」

「三体集めるから、その中心あたりに!」

「りっくん! そんなことしたら、私達も水を伝って感電しちゃうじゃない!」


 確かにそうだった。どうすべきだ。やはり一体ずつ倒していくしかないのか。こっちは四人。数は多いが、身体能力が高い人はカーラさんぐらいだ。少し難易度が高すぎる。


「リク君、カーラ。私が何とかする。三体を離さないように時間稼ぎをしてなさい」

「ジャットさん?」

「四人をそれぞれ守る防護膜を作るには時間がいる。それも長い時間を維持のは難しい。エリサ、タイミングを逃さないように落雷を落としなさい」

「はーい」


 カーラさんとぶつかったり、危うく仕留められそうなったりしながら、攻撃を避ける。一体を殺してしまっても興奮させて大変そうだから、うかつに剣も抜けない。

 ジャレットさん。いつまで耐えればいい。もう結構きつい。三体がおれのところに集まってくる。飛び上がる。これは少し落ちたら仕留められてしまう。


「エリサ!」

「了解!」


 爆音がする。草が焼けた臭い。そして倒れる三体の黒い猫。腹が動いているから、死んではいなさそうだが。このままここにのんびりいるわけにもいかない。


「遅い! ぼうっと見てないで走りなさいよ!」


 エリサの声が聞こえる。少し離れたところで見ているカーラさんとジャレットさん。そして、大声で叫ぶエリサ。

 眺めていないで逃げないと。

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