1話:レザリア図書館
「なんなのよおおおお!」
エリサの絶叫が王立図書館の中にこだました。
少し大きな声を上げるだけでも論外のこの場所でいい度胸だと思う。王立図書館から締め出されたいのだろうか。
とはいえ、しょうがないことだろう。ここ四日ずっと書物を漁ったのに、ユウルという言葉はどこにも出てこなかったのだ。
ユウルという言葉が出てきそうなものはほとんどあさったと思う。それは、文字の読み書きが怪しい子どもでも分かるような地図から、専門的な地理学書や地理について書かれた歴史学書までだ。だが、出てこなかった。
レザリアにさえ行けばなんとかなると思っていた見立ては甘かったらしい。
「ずうっと地理学書。頭があほになる」
「じゃあ、おれ、もうすでにあほ通り越してるな」
「どうでもいいわよ。そんなの。それより、どうするのよ。何も見つからないじゃない」
そう言われても。
レザリアは情報都市だ。情報屋、酒場、学問所。そこで商品として情報を扱っている。
だから、その商品を買えればいいのだが、あいにくそんな大金は持っていない。そもそもユウルの情報があるとも限らない。
「それを考えないといけないんだよなあ」
ふん、と鼻を鳴らして出ていこうとするエリサ。追いかけようかどうか迷ったが、時間的にはまだ調べられそうだったから一人で何か探そうとおれもふらふらすることにした。
その矢先、どすん、と音がした。
何だと思って音がした方に目を向けると、数冊の本とぺたんと地面に座り込むエリサの姿があった。
おそらく、エリサが本棚に躓いてこけたら本が落ちてきた、というところだろう。
「大丈夫?」
「うるっさいわね。あんた。あたしを笑うつもりよね? そうよね!」
「いや、笑わないけど。それより、本を戻さないと」
「分かったわよ! 返せばいいんでしょ?」
そう言ってむくれるエリサが手に取った本には、「よくわかる! 男と女の夜の役わり」と書いてあった。そんなの読みたくないなと思いながらエリサを見ていたら、エリサの顔が真っ青になり、なぜかこっちに本が飛んできた。
もちろん、きちんと受け止めた。さすがに本の弁償とでもなったら旅費が無くなってしまうどころか借金まみれになってしまう。内容はどうであれ、本は高価だ。
再び床に目を移す。「こんどはきみがおうさまだ!」、「バッカスの祭り」、「僕はおセンチ、彼女はヒステリー」と、どうでもよさそうなのが並んでいる。需要はどこにあるのだろう。
返そうか、そう思った時に、エリサの手の中にある本が目に入った。
本というよりは、辞典だ。古語辞典。
これだ。古典の授業中、似たような言葉を見たことあるような気がする。
「エリサ。それで、ユウルって引いてくれないか?」
「え、ええ。うん」
エリサがぱらぱらと辞典を広げる。しばらくして、彼女は首を振った。
「ないよ。ユウルって言葉」
「じゃあ、ユだけで意味はある?」
「土地、地面、場所って意味だって」
「あと、ウルって言葉も調べて」
「了解。ええっとねえ、あった。希望って意味」
「今日は帰るか」
希望の地、ユウル。小さな田舎町まで載っていた地図にも、古い地図やそれ関連の地図にも載っていない様な場所。
隠れていなければならない理由でもあるのだろう。そうでなければこれほど徹底的に探したのに見つからないなどありえない。
隠れて希望を願う。誰が、どうして。それが分かればきっとおれが殺された理由が分かるかもしれない。ここで分かればいいのだが、おれが持っている情報では無理そうだ。
「ねえ、それだけでユウルの場所、分かったわけ?」
「あ」
そうだ。それを探さないといけないのに、何、満足している。どうしよう。もう、情報屋にでも何にでも頼ってしまおうか。いや、そんなお金はないからなあ。どうしよう。




