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62.方向音痴なあたしと可愛いお客様 中編

 女三人寄れば(かしま)しいとはよく言ったもので、女性が三人どころか四人もいるここには絶賛ミニハーレムが誕生しております。話題の中心は、汚れなき美少年ジュムラー(小)。いやあ、あの潔癖症で面倒なジュムラー(大)と違って、この純粋無垢なお子様には心癒されます。


 そんな彼を取り囲むのは、次期北の国の王を決める予言を持つ姫君に、ほぼ不死身な聖女、あまねく命に祝福を与えちゃいそうな妖精女王に、異世界から召喚されて魔女になったらしいあたし。どう、世界取れちゃうよ? いやいっそジュムラー(小)に捧げるか、この世界。なんかそれでもいい気がしてきた。


 ホットココアを一生懸命ふうふうする様子に萌え、慌てて飲んであちちっとびっくりする様子に萌え、牛乳ひげならぬココアひげをつけながらにっこり笑う様子に萌え、とりあえず妖精女王も姫君も聖女もあたしも、完全ノックアウト。いやん、可愛い!!!! もうショタコンでもいいの。だって可愛いは正義なんだもの。


 きゅんきゅん高鳴る胸に翻弄される女性陣とは違って、男性陣はいたって冷静です。盛り上がる女性陣を尻目に、おのおの無言でテキトーに過ごしておられます。まあ、あたしだっていくら美形とはいえ男性陣が美少年きゃわゆーいとかはしゃいでたらドン引きするけどさ。


 それにしてもこうやって離れて見る分には、男性陣はみな美形で絵になるわねえ。団長は暇つぶしがてらに片手腕立て伏せをしてるし、ハイエルフ様は部屋の中の観葉植物を勝手に巨大化させてるし、黒龍はまた全身を四大精霊王に噛み付かれてるし、第二王子は未だ気絶したまま半目で壁にもたれていますけど。あ、床に転がっていた第二王子を無言で拾い上げ、壁にもたれかけさせた騎士団長はやっぱりイケメン紳士だと思います。


 あ、シュワイヤーですか? 脱出を試みるも失敗して、ジュムラー(小)のお膝の上ですよ。美少年&もふもふ、サイコーです。あ、もふもふパラダイスにしたいから黒龍に噛み付かれてるふわもこな方々をこちらに呼ぶとしますか。美少年&もふもふ=サイコーなわけだから、美少年&もふもふパラダイス=マジサイコーなのは言うに及ばずな公式です。


「どうしてこんな夜遅くに、お外に出たりなんてしたんですか?」


 ホットココアを飲み終わって、ほっと一息ついたジュムラー(小)に、まさに女神のような慈愛をもってシンシアさんが尋ねます。この間の取り方、決して責めているように聞こえない聞き方、押し付けがましくない声のトーン、すべてパーフェクト! さすがメイドの鏡ですよ、シンシアさん!


 さらにジュムラー(小)が緊張しないように、さりげなく優しくそっと手を包み込む姫君。その手をゆっくりと握り返しながら、力なく微笑み返す美少年。ぐはあ、破壊力抜群です。鼻血が! 鼻血が出ちゃう!


「ははうえがね、いますぐ でていきなさいって。そう ぼくに いったの。ごめんなさいって いったけど、おうちに いれて もらえなかったの」


 顔を曇らせながら、ぽつりぽつりと話すジュムラー(小)。あたしが疑問に思っていることに気づいたようで、メープルちゃんがジュムラーの継母は王妹なのだと教えてくれました。でもこんな夜更けに家を追い出すようなことするかしらね?


「ちちうえが かえってくる まえにって、そとに だされたの。ははうえ、ぼくのこと、きらいに なっちゃったのかな」


 うるうると瞳をにじませながら、言葉を続けるその姿に、また不覚にもきゅんきゅんしてしまう。


 もふもふたちも、元気出せよっと言いたいのかぺろぺろ顔を舐めてくれているけれど、美少年はごしごしと乱暴に顔をこすって、そのままシュワイヤーの毛皮に顔をうずめた。おめでとうシュワイヤー、きみのご自慢の毛皮はたった今鼻水まみれになりました。せっかくお風呂に入って綺麗になったのに、残念だったね。


「多分、お母上には何か理由があったんだと思うの。こんなに可愛い子を、理由も告げずに追い出すなんてしないはずよ。何か預かったものはあるかな?」


 さすが、もとは村娘のメープルちゃん。村社会で育ってきた彼女が、子どもの扱いが苦手なわけがないよね。にこにこと安心させるように笑いかけながら、ヒントになりそうなものを探してくれている。その手際の良さはあっぱれです。そして語尾を伸ばさずに話せるのね、君。


 涙腺が崩壊してきたのか、えぐえぐとしゃっくりあげながらジュムラー(小)は、服の下から小さなペンダントを取り出してきた。首にかけられた鎖はとても繊細で、こんなあたしでも一目見て質の良いものだとわかる。小さいとはいえ、はめられた紅い宝玉はとても澄んでいて夜だというのに驚くほどの光を放ち、きらめいた。


「これは……紅薔薇の雫。北の国の王家の秘宝ですわ。聞いたことがあります。認められたものが心から願えば、ふさわしき護り手が現れるのだとか……」


 考え込むように姫君がつぶやく。いきなり出たよ、伝説級アイテム。そんな貴重なものを首にかけていたということは、絶対にジュムラー(小)の義理のお母さんは、好きで追い出したわけじゃないよね? これはやっぱり、あたしたちのうちの誰かが、ふさわしき護り手になるっていうパターンなんでしょうか。

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