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61.方向音痴なあたしと可愛いお客様 前編

 黒龍の後ろから顔を出したのは、こちらもまた何とも言えない表情をした赤毛の騎士だった。まあイケメンっていうのは、そういう微妙なむっつり顔でも素敵なんだからお得よね。ハロー、数時間振りの再会だね♪


 あれ、なんかさっきと雰囲気違うけどどうしたの? いつもはこのくそ暑いなかでも、きっちり上着を着て、襟までボタンをとめているくせに、妙にラフな格好をしてるのね。それに二人そろって、どうしてそんな微妙な顔をしているの?


 騎士団長は、無言のまま、視線を下げた。何ということでしょう、その視線の先には年端もいかない華奢な美少年がいるではありませんか。こんな夜更けにどういうことですか。もしかして騎士団長ったら、ロリコンから、ショタコンにくらがえしたの?! 騎士団長が犯罪とか世も末だわ。お巡りさん、ここです! こいつ捕まえてください!


 まあ冗談は置いておくとして、あたしの視線に何か思うところがあったのだろうか。赤毛の騎士はぼそりと、城のすぐ近くで拾ったとつぶやいた。お城の近くは、基本的に身分の高い人が住む場所だ。貴族たちが住む高級住宅地、そのあとが裕福な商家などが住み、さらにその他平民と続いていく。


 少なくとも普通に考えて、こんな時間にこんな綺麗な顔立ちの幼児を一人っきりで屋外でうろうろさせるはずがない。どうやら、この子はちょっと訳ありらしい。


 年齢は幼稚園児くらいだろうか? メープルちゃんと並ばせてみたら、美形姉弟ということで評判になりそう。幼児とは思えないほど、整った顔立ち。どこか不安そうにこちらを見上げる潤んだ瞳は、子どものいないあたしでさえ保護欲をかきたてられる。ショタコンじゃないつもりなんだけど、ヤバイわあ。


 大体、なぜかぶかぶかの団長の上着を羽織っているところが、これまたグッとくるじゃあありませんか。袖を幾重にも折り返して、それでも手が隠れてしまうとか、華奢で細い足とか可愛すぎる!


 それにしても、どこか見たことのある顔ね。独特の青みがった青金色の髪に、海を思わせる瑠璃色の瞳。それにしても、上目遣いで赤毛の騎士を見上げる姿、和むわあ。いい人認定されてるのね。うんうん、脳筋マッチョなとこもあるけれど、信頼できる人だよ。あたしが保障してあげる。


 その時、赤毛の騎士にからむちょっと面倒くさい潔癖男の姿がちらりと脳裏をよぎった。そういやしばらく見ていないあいつも、同じような髪色と瞳の色をしていたような……。ええっと、待てよ。脳内でこの子を成長させてから、ある仮定をイメージしてみる。


 ちょっと生意気そうな表情をさせて、憎たらしいことを言わせて、盲目的に聖女にまとわりついて、ついでに潔癖症だったりしたら……。まさかね。いくら魔法でも、流石にないよね。ジュムラーの血縁者だよね?!


 そこで挨拶をするように赤毛の騎士にうながされて、おずおずと美少年は口を開いた。緊張しているのか、ほんのり頬を染めたところが、ますますポイント高いです。


「は、はじめまして。ぼく、ジュムラーといいます」


 そのまま、騎士団長の背中に隠れてしまった。ぎゅっと、マッチョの手を握りしめているのが母性本能をくすぐる。知らない人にたくさん囲まれてやっぱり心臓がドキドキしてしまったのかもしれない。


 大丈夫、怖くない怖くないっと手を差し出して、例の姫姉様ごっこをやりたい気分だ。けれどあたしが何か言う前に、優しげな顔をした赤毛の騎士が守るように少年の肩に手を置いた。


 いやあ、つくづく思うんだけど、あんたイイ男よね。ちょっとシュワイヤー、その濡れ雑巾みたいにじとっとした目であたしを見ないでちょうだい。これは客観的な評価です。異論は認めません。


 それにしても、この美少年、本当にあの宮廷魔導師なの? いくら魔法がありふれていて、かつ本人が宮廷魔導師だからって、若返りはないでしょうよ。ここまで考えて、あたしは庭師を見た。そういやこの世界は、なんでもありだったよね。若返りくらい普通にあるのかも。


 それに思い返してみれば、予言の魔女の姿だって、意図的に老婆の姿を装っているだけだったっけ。薔薇園で会った時は老婆の姿だったけれど、先日公園で会った時は湖面にうら若き美女が映っていたし……。まさかの魔法万能説なのかしら……。


 すると、ハイエルフ様が小さくため息をついた。


「幼き人の子よ。苦しみに疲れ、すべてを忘れて過去の姿に戻ったか」


 おやまあ。やっぱりジュムラーのこの姿は、理からは外れているらしい。永き時を生きる者の言葉は、特段大きくもない淡々とした声で発せられた。


 けれどジュムラーにとっては、今の状態では意味がわからずとも、それは叱責と同等のものだったらしい。みるみるうちに涙があふれそうになり、けれど必死でそれをこらえようと口をきつく結んでいる。


「ぼく、なかないもん。ぼく、おとこのこだもん。」


 小さく震えるいたいけな幼児の姿を見て、放っておける人間がいるだろうか。いや、いない。思わず反語で強調しちゃったよ。ここにいる女性陣は、もうみんな北の国の王対策会議のことなんか忘れちゃってるよね。


 シンシアさんは、落ち着かせるためにと言って速攻でホットココアを作りに出て行ったし、姫君は優しく手をとって、空いているソファにジュムラーをそっと座らせている。


 まあそのソファー、さっきまで第二王子と銀色の猫が居座ってたんですけどね。ミニジュムラーに見えないように、メープルちゃんが元精霊王だけ華麗に蹴り落としてました。


 ちなみにあたしはと言うと、勝手にアニマルセラピーを彼にお勧めしております。ほうら、ぼくは動物は好きかな? 見てごらん、ソファの端っこにいるこの猫ちゃん、可愛いでしょ? おとなしいからなでてみる? ええ、決してこの猫ちゃんがどういう経緯で大人しくなったのかなんて悟らせませんとも。


 銀色の猫が子供とはいえ男の手になでられるなんて、平時ならありえません。思いっきり怒りそうなシュワイヤーも、今回はうなり声をだす気力もないようです。ラッキー。


 とりあえず、北の国の王対策会議はしばらく置いといて、こちらの可愛い男の子の状況について確認しましょうかね。

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