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58.方向音痴なあたしと北の国の王対策会議 前編

 あたしの帰還に、離宮はわいていた。普段は物忘れの姫君が暮らす場所として、どちらかといえばひっそりとしているのだが、今日ばかりは嬉しいを通り越して、頭が痛くなるほどに賑やかだ。


「申し訳ありません。わたくしは自分の運命を嘆いて、なんでも魔女殿にお願いしてばかり。わたくし、魔女殿のことも考えずに、自分のことばかりだったのです。他の人と変わらない。わたくしが今まで嫌だと思っていたことを、結局魔女殿に同じようにしてしまっていたなんて……。それなのに、あんな風に八つ当たりしてしまって、本当に恥ずかしくてどうして良いかわかりません。もうわたくしのことなど、お嫌いになってしまったのだとずっと反省していたのです。本当に、本当に申し訳ありません」


 泣きはらした顔ですがりついてくる姫君。ああ、そういやあたしが行方不明になる前に姫君と交わした会話ってば、姫君の予言の解釈に関わることだったよね。こちらこそ言葉足らずだったのに、そんな気にやむほど悩んでたなんて。本当に君はいい子だよ。


 今まで苦労してきたお姫様だもの、何でも解決してくれそうな人が現れたら、そりゃあ全力ですがっちゃうよね。大丈夫、あたし一人には荷が重いけど、みんなでなら何とかできそうだよ。あ、シュワイヤーがちょっと姫君のことにらんでる。そんなに無理はしないつもりだから、威嚇しないで。


 そんな謝り通しの傷心な姫君の腰そっと手を回し、いささか密着しすぎではないかという体制で体を支える役得な黒龍。普段の口下手ヘタレとは思えない動きに、よくやったと褒めてやりたくなる。よしよし、あたしの行方不明期間によく頑張ったじゃない。


 でもね、キリッとした顔の涼やかな黒目はちらちらと姫君のぷっくりとした唇を狙ってるし、腰に回した腕はがっつり姫君の豊満な胸に食い込んでますよね。平静を装っているけれど、口元から隠しきれない笑みが漏れ出ている。このむっつりすけべめ。姫君、そこの隣の黒騎士、多分エロいことばっか考えてますよー。気をつけてー。


「おおおおお、おでえだまあ!!! おがえりなだいいいい!!!」


 雄叫びとともに、華奢な美少女が顔面を崩壊させながら飛び込んできた。お姉さま、おかえりなさいという言葉が、こんなに雄々しくなるとはびっくりです。聖女の代わりに、武士(もののふ)の称号をあげましょう。そのままあたしに抱きついたまま、えぐえぐとしゃっくりあげる。ありゃまあ、可愛い顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだよ。こら、あたしのドレスでそれを拭くんじゃありません。


 そしてその勢いに負けて倒れこむリーファを、すかさずお姫様抱っこで抱き上げる黒龍。すごい、これだけみるとむっつりすけべもイケメンだぜ。いやあでも二人の顔の距離が何気に近いですね。ラブシーンはぜひお部屋を変えてお願いします。片思いは見ていて微笑ましかったし、両片思いはじれじれが良かった。両思いになった途端に若干うざくなってくるとはこれいかに。


 それにしてもメープルちゃん。その格好はどういうことですか。この世界に丑の刻参りはないはずだけど、どうして白装束に裸足でろうそくを頭に巻いているの? あたしを異世界から連れてくる前に、異世界の覗き見をしたのかもしないけれど、えらく解釈を間違った儀式を取り入れてるね? まあ異世界召喚を反省して、召喚関係の儀式をしようとしないだけマシなのかもしれないけど……。


 あ、そのわら人形、丁重に処分してね。変に焼いたりしたら呪われそうで嫌だよ。おどろおどろしい雰囲気を身にまとって怪しげな儀式を準備していたメープルちゃん。それだけ心配してくれていたのよね。その気持ちはちゃんと受け取ったよ。どうもありがとう。


 その横で、自分にも声をかけて言わんばかりのオーラを振りまきながら、じっとたたずむのはカイル王子。しばらく見ない間に、また残念キャラ化しているんだね。例によって例のごとく、身体中に引っかき傷をこしらえたあげくもふもふに噛まれ続けています。


 顔に白い小さな狼をぶら下げて、頭に白い小鳥が髪をせっせとむしっているし、おしりにこれまた白い子虎が噛み付いている。あ、今首筋を締め付ける白蛇が見えたぞ。もう完全にカオスね……。第二王子ってば、どうしてこんな目にあってるんだろう。あえて聞かないけど。


「やくたたずー」


「ふのうー」


「へんたいー」


「おうじー、つかえないー」


「もとせいれいおうのくせに、つかえないー」


「じじいとおなじくらいつかえないー」


「くそったれ!!!何でこんな目に!」


 結構アレな単語で責められてますけど、何があったんだろう。いや多分あたしがいない間に、捜索もせずに娼館に行ったりしてたんだろうけど。まあカイル王子は元精霊王だし、あたしの居場所がわかってたからこその行動だったのかもしれないけどね。でももふもふたちは、リーファを泣かせる奴のことは嫌いだからね。もう少しうまくやったほうがよかったかもね。


 結構痛かったのだろうか、ごろごろと床を転げまわる元精霊王のことをシュワイヤーが鬱陶しそうに見る。ちょっとそこ、銀縁眼鏡を片手でかけなおしながら、片手間に第二王子のことを片付けようとしない。しかも第二王子はある程度質量があるから、猫みたいにソファー下には入らないよ! しばらくすると、第二王子はぐえっという変な声を出して、それっきり静かになった。よく見ると、第二王子のお腹の上にはどなたかの美しいおみ足があるではありませんか。


「あー、じじい!」


「でたな!わかづくり!」


 庭師の格好をしているものの、まったく隠されていないオーラを身にまとってハイエルフ様の登場だ。とりあえずちび精霊王たちの言葉遣いから直していかなくちゃ。さっきのもそうだけど、まったく誰だよ、こういう言葉使うの。


「こら!ソンサーリュウ様にそんな言葉を使っちゃいけません! 誰に教わったの!」


「「「「ばらえんのまじょさまー」」」」


  ダ、ダメだ。もふもふたちの情操教育が崩れてる。それにしても、薔薇園の魔女とハイエルフ様の関係って何なんだろう? シュワイヤーなら何か知ってるかな? ちらりと見てみれば、銀色の猫は凄まじい勢いで背中にブリザードを背負っていました。迷いの森であたしに出会ったのに、事情を説明したりしなかったからだろうなあ。


「幼きものの戯言など、我は気にならぬ」


 本当に? いつの間にかこの部屋に侵入した挙句、ゴッドハンドでめっちゃチビ狼をわふわふしてるくせに? もふもふがよだれ垂らしながらひくひくと気持ちいい地獄に陥ってるけど、それはお仕置きなんじゃないの? アレだな、リーファの時もそうだけど、このひとネットリ系なんだな。何だかハイエルフ庭師に偏見を持ってしまいそうだわ。ちょっと離れておこうっと。


 シュワイヤーが、唯一の理性であるメイドバージョンのシンシアに湯あみの準備を頼まなかったら、この混沌がそのまま朝まで続いていたのだろう。そう思うと、思わずため息がもれてしまった。


 それにしてもちょっと赤毛の騎士に会って、陛下への御目通りをお願いしようとしたら、こんなことになるなんてねえ。お弁当のおつかいを森で頼まれている間、みんな結構心配してくれたんだね。こんな状況で不謹慎かもしれないけれど、やっぱり嬉しくてちょっとにやけてしまう。まあせっかくこれだけ人数が集まったことだし、ついでに北の国の王対策会議を開催させてもらおうかな。

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