表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/83

50.方向音痴なあたしと乙女な姫君と龍のうろこ 後編

  あたしは姫君が走り去っていくのを目の端で確認すると、またもやごろりとベッドの上に横になった。猫型からヒト型になったシュワイヤーも、あたしの許可を得ることもなく一緒に横になる。ああ、美形抱き枕最高です。猫型のときとは違って、ヒト型になるとこの男、シトラス系の香りがするのが不思議なところよね。


 もうちょっと上手い伝え方を考えた方が良かったのかもしれないけど、今のあたしにはあれで精一杯。心理カウンセラーでもないのに、いろいろと大変な御仁が多いこの世界をあたし一人でケアするなんて無謀なんだよ。とりあえず、ずっと言わなきゃと思っていたことを言えてスッキリしたあ。昼間っからビールでも飲みたい気分だわ。あ、シャンパンでも可。祝杯か、ヤケ酒か、それが問題だ。


 とはいえ状況としては、全然テスト勉強やらずに受けたテストをまさに受けて、そのテストが終わったところっていう感じ。まだテストが返ってきてないからとりあえずホッとしてるけど、テスト返却後にはどうなることやら。


 とりあえず、姫君の後を追った、黒龍なアイツの手腕に期待しておくとするか。ヘタレ脱却なるか、今が踏ん張りどごろだぞ。丸投げ最高とばかりに、あたしはシュワイヤーの髪をこねくり回すことに没頭した。


 今更な上にどうでもいい話ですけど、変化した瞬間から司祭服を着ているというのはどういう仕組みなんですかね? 乱暴に扱っても座りジワなどができないその服は、大層羨ましゅうございます。ズボラなあたしにも欲しい機能だわ。


「ねえ、予言の魔女が予言をもっとわかりやすく伝えられていたとしたら、今頃どうなっていたと思う?」


 サラサラの髪をこねくり回しながら、あたしはシュワイヤーに聞いてみる。こっそり三つ編みしようとしたら、やんわり止められてしまった。ちぇっ、ケチめ。


「姫君は、とっくに殺されていたでしょうね。自分が王位にあるものならば、その予言を耳にした時点で確実にそうしています。予言が真実かどうかわからなくても、とりあえず自分に不利益になりそうな不確定要素は潰しておくことが、生き延びるための基本事項ですから」


 シュワイヤーは一瞬のためらいも見せずに、そう答えてくれた。あたしの予想通りの答えをどうもありがとう。でもだからと言って、ここでのおさわりはギルティです。なんといっても、人様の部屋のベッドでそういうことをするのはいただけません。


 それにしても、シュワイヤーの答えを聞きながらあたしは一人で納得する。そうだよね、やっぱりそう思うよねえ。わざわざあいまいな予言を出したのは、ただ単に未来が読み取りにくいだけじゃなかったってわけだ。


 もし予言の魔女が、「次の北の国の王を決めるのは、東の国の姫君である。ただし、姫君は北の国の王族と婚姻関係を結ぶ必要はなく、姫君が北の国の王にふさわしいと思う人物を身分に関係なくとりたてることができる」なんて公言したら、そりゃあ姫君の存在自体が邪魔になっちゃうもんね。


 他国の人間、しかも一定以上の権力を持つ女。いくら美しくとも、冷酷な政治判断の前では吹けば飛ぶような命の軽さだろう。


「このタイミングで姫君に予言の意味を伝えたのは、何かわけがあるんでしょう?」


 髪をもてあそぶあたしの手を握りながら、シュワイヤーがあたしに尋ねる。なんだよ、抱き枕はじっとしてなさいよ。


「うん。今までずっと会わずにいた誰かさんにそろそろ会わないといけないなあと思ってね。その前に、姫君とはしっかり話し合いをしたかったからさあ。呼び出しかからないのも不思議だったんだけどね」


 そう、お偉いさん。この北の国の王様に会わなくちゃね。

 たくさんの人たちからチラホラと話を聞く北の国の王だけれど、ちっとも全体像がつかめない。


 姫君のことだって、幽閉しているようで保護しているようにも見える。もちろんそれは予言を逆手にとった、過分に政治的な思惑の見えるものではあるんだけれど、それを差し引いても手厚い措置をとったと思う。男の顔が判別できなくしたのはダメだと思うけど。


 一方で第二王子であるカイル王子は、父親のことをあまり好きではないみたいだったな。だって初対面でカイル王子のことを北の国の王と間違えたときに、「あんなやつと一緒にするな」とか言ってたし。


 第一王子はどうなんだろう。そもそも第一王子なんで、柱の影からチラッとしか見てないしなあ。とりあえず、王命を気にくわないようなことは言ってたよねえ。今思うと命知らずな発言よね。悪いこともいろいろやってたみたいだし。


 メープルちゃんは、北の国の王に物理的に有効な盾として使われていたから、思うところもいろいろあったみたいだよなあ。その割には微妙に気が合うようなエピソードも持ってるし、うまいこと人の心を把握する王様よね。


 どういう人なんだろう、北の国の王って。単純に冷酷無比な王と思えないのはなぜなんだろうか。


「どうやって会いに行くおつもりです?」


 しごく当然なあたしの猫の言葉に、笑ってウインクをした。


「先に神殿に行きましょう。メープルちゃんを追いかける赤毛の騎士に案内させればいいわ」


 もれなく、無料で誰かさんのメンタル相談をする羽目になりそうだけどね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ