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4.方向音痴なあたしと赤毛の騎士 中編

 下着姿のあたしと、全裸の赤毛マッチョ。

 無言で見つめ合うこと数秒、赤毛マッチョが困ったような顔で赤毛をかきあげた。

 その仕草もまた様になる。うん、素敵だね!


「おいおい、どうした? こっちは男湯だぞ。しかも騎士専用だ。いくら子どもとはいえ、規則は守らんとな」


 はいきた、まさかの子ども扱い。

 知ってますよ、運動神経がないのに加えて、あたしには女性にあるべき二つの膨らみがないことくらいね!


 胸が無さ過ぎてノーブラでも正直いいくらいだけど、一応社会人としてカップ付きキャミソールだ。

 綿百パーセントでノンワイヤーだから洗濯簡単だし、お値段もお手頃。


 同級生のアイドルが、なぜか取り柄のない私に優しくしてくれたのを思い出す。

 学年一位の頭の良さに加え、顔も可愛い、さらにサバサバとした性格で男女問わず人気のあった彼女。

 彼女があたしをかまうのを良く思わなかったらしい女子が、あたしの悪口を言った時に彼女はこう啖呵を切った。


「あの子のことバカにしないでよ! あたしたち、貧乳仲間なんだからね!」


 嬉しさと悲しさで、泣けました。

 そういや彼女も胸なかったんたよね。

 でも彼女はスレンダーと呼ばれ、あたしは絶壁と呼ばれ、世の無情さに枕を濡らしたものさ。


 ついでだから言っとくと、下も綿百パーセントのボクサーパンツだ。

 肌の弱いあたしから言わせてもらうと、男性諸君が夢見るレースの化繊でできた上下お揃いブラセットは、肌によくない!


 勝負下着とかにはまった時期もありましたよ、もちろん。

 でもね、あれかぶれるんだもん。仕事が終わる頃には上も下もかゆいかゆい。

 やっぱり下着は綿百パーに限るわ。


 今日みたいな突然のハプニングでも大丈夫!

 どこも何も見えてないから、焦る必要もないよ。


 くっそ、この間彼氏と別れたから見せる相手いないからとか、負け惜しみじゃないんだからな!

 泣いてやるっ!


 そんなことを考えながら、あたしはとりあえず赤毛のマッチョから目をそらすべく下をむいた。

 こんな状態じゃ、いまさら甲高い悲鳴をあげるわけにもいかないし、とりあえず事実だけをぼそりという。


「青いマントの人が勝手に……。汚かったから、顔を蹴られた後、魔法でお風呂に放り込まれたみたいで……」


 そうだよ、怒るならあのおにいさんを怒ってよ。

 人を勝手によくわからないところに引っ張り込んで、汚いからって顔面キックだし、あげく男湯に放り込むし。


 ってか、あたし重要情報、青いマントしか知らないじゃん。この世界の人が全員青いマント着用がデフォルトとかだったら嫌だなー。


 そういうと赤毛のマッチョは、さもありなんとばかりにあたしをみおろした。

 ってか、とりあえず何かで下半身を隠していただけないだろうか?

 いくらあたしが、うちの会社のアホ同期のせいで男性の裸を見慣れているからとはいえ、局部丸出しは勘弁してください。


 ちなみにあたしの同期は、みんなでキャンプに行ったときに、お尻にロケット花火を挿して半ケツで走り回るやつらだ。これでもあたしの勤める会社は、一部上場企業なんだぜ。ほんと、何それ。もう日本経済が怖すぎる。ヤバい、あんなのが日本を支えてる。


「青のマントをつけていたということなら、相手は宮廷魔導士だ。初対面の相手の顔を蹴りつけて、いきなり転移魔法で男湯に放り込むようなやつは、まあ一人しかいない。おそらくおまえをここに放り込んだのは、宮廷魔導士のジュムラーだ」


 すごい! 重要情報がほとんど出てないのに、もう本人特定出来たよ。

 指名手配犯並みの速度だね!


「あいつは、極度の潔癖症でね。ちょっと前の、そう、聖女に出会う前のあいつなら、お前は消し炭にされていてもおかしくなかったはずだ。何を隠そう、以前、訓練帰りの騎士があいつにうっかり触れてしまった時も、大変な騒ぎになったのだ。顔面を蹴り上げられて、風呂に放り込まれただけなら本当に運がいい」


 何だそれ、リバースしたら消し炭とかあんまりだ。

 やっぱりあのおにいさんは指名手配犯並みのヤバさでしたか。

 そんなの、野放しにするなよ。おまわりさん、助けてください!


「いきなりで驚いただろう、同じ王宮に籍を置くものとしてオレが代わりに謝罪する。すまなかった」


 いきなり赤毛のマッチョにひざまずかれて、あたしはびっくりする。

 服を着てたら超カッコいい場面なんだろうが、いかんせん相手は全裸だ。

 マッチョは潔癖魔導士の知り合いでしかないんだし、謝罪は不要だ。もうなんでもいいから、出て行ってくれ!


「いいえ、どうぞお気になさらず」


 仕方がないからあたしは、そう答えておく。

 あのおにいさんが宮廷魔導士なら、さしずめ目の前のこの人は、騎士か何かだろう。変なところで真面目で、紳士だし。全裸だけど。


 そういや確かに落下している最中に、相手は聖女がどうのこうの、魔法がどうのこうのと言ってた気もする。落下中は気持ち悪すぎて、話の内容全然覚えてないのが残念なところだね。


 宮廷魔導士に転移魔法に聖女ねえ。

 認めたくないけれど、異世界トリップ確定したわけだ。


 どうせならあと十年若い、夢と希望と黒歴史あふれる状態で来たかったわ。

 大人になった今だと、今後の未来、暗い部分しか想像できない。


 といいますか、聖女とやらも自分の崇拝者くらいきちんと管理してよね。

 聖女の管理不行き届きだから頭おかしいのが来ちゃったのか、聖女が頭おかしいから崇拝者もあんなんなのか。


 今さらだけど、必要なら聖女側から説明に出向くなり、丁重にあたしを招くなり、いくらでも方法はあるでしょうよ。


 そうできない、もしくはそうしないというのはどんな理由がある?

 あたしに拒否権がないから? あたしの命に価値がないから? それとも秘密裏にことを進める事情がある?

 予想できる事柄はあたしの気持ちを鬱にする。


 いずれにせよ、誰か協力者を見つけなきゃ、どうしようもないな。

 子どもに間違えられていることや、いまだに全裸であることは置いといて、目の前の人は話が通じそう。ちょっと探りを入れて、あわよくば味方になってくれないかな。


 あれ? ひざまずいていた赤毛のマッチョが、わなわなと震えている。

 全身ずぶ濡れのあたしの言うことじゃないけどさ、やっぱりその格好ちょっと寒かったんじゃない?

 その肩に手を伸ばそうとした時、マッチョは勢いよく立ち上がった。

 なんだよ、びっくりするじゃないか!


「潔癖症という難しいものを持ちながら、それでも王宮にとりたてられるジュムラーの魔導士としての才は認めよう。聖女を想うその気持ちも。だがな、王宮騎士団を取りまとめるものとして、オレにはこの体がある!もちろん、聖女を想う気持ちは誰にも負けはしない。見よ、この筋肉!」


 おまえも頭おかしい側の人間か!

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