27.方向音痴なあたしと庭師なエルフ 後編
若干ですが、性的表現が入ります。苦手な方は読み飛ばしてください。
あたしが視た未来について報告すると、ハイエルフ様はにっこりと微笑んだ。
「リーファが緑の王……ふふふ。妖精女王の入れた紅茶も、今日は格別に香り高い」
ハイエルフ様は堪えられなかったのだろう、おかしそうに声を漏らした。ゆっくりと紅茶を味わうようにソーサーを持ち上げる。
なんだろう、ものすごく誉められたような気がしてすごく嬉しい!
「お疲れのところ申し訳ない。こやつがうるさくてかなわぬゆえ、もう一度未来の道筋を視てはいただけないだろうか?」
げしげしとハイエルフ様の足を蹴りつけるカイル王子。あんた、本当に元精霊王? 最初のひょうひょうとした年齢不詳な印象もぶっ飛んでしまった。いや姫君がいないから、身内だけになって安心して素がでてるのかも。まあどんどんレベルが低下しているような態度なのは間違いない。
あ、後ろに回って変顔してやがる。あんたは小学生男子か。本当に例の力を譲り渡した後は、記憶しか精霊王の名残は残ってなかったりしてね。そんなカイル王子をあっさりと無視して、ハイエルフ様はあたしに申し訳なさそうにお願いしてくる。
絶対に断れないことを知っていてお願いしていることはわかっているんだけど、こんなあたしにも頼ってくれる人がいるということがとても嬉しい。
あたしを認めてくれるその言葉に、あたしはあわてて立ち上がる。
「いいえ! ちっとも疲れてなんかいません。あたしなんかの力でお役に立つなら、ぜひやらせてください!」
哀しいかな、根っからの社畜精神なあたしは、何のためらいもなくそう宣言していた。こうやって学生時代から雑用を自分で抱え込んでいるんだよねえ。良いように使われているのは知っているけれど、誉められると弱いのだ。
女子のくせに自分からあんな世界に行くのを立候補してしまうなんて、お嫁に行けない。リアルでだって、女性向けサイトをこっそり閲覧していることも内緒なのに。
強烈に不機嫌そうな顔をしたカイル王子と手をつなぐ。
ごめんよ、またよろしくね。いっそアイマスクと耳栓をプレゼントしたいわ。あ、ティッシュはこの世界にないから綿か何なら鼻栓も持ってく?
カイル王子と手をつなぐと、ぐいっと何かに体を押される。何だか流れるプールに押し流されるみたい。突然、ねっとりとした蒸し暑い空気に包まれた。じっとりと肌に張り付くような、湿度の高さだ。ふくれっ面をしたままのカイル王子が、乱暴にあたしの手を取り誘導してくれる。
「別に、リーファの裸を見たいわけじゃない。今回は場所が広いから、案内しているだけだからな」
ツンデレなのか、エロエロな言い訳なのかわからないが、とりあえずカイル王子におとなしくついていく。というか今回も姫君は裸なのか。
さくさくと進んでいくと、ローマの野外劇場の遺跡のような場所にでる。
そのひらけた場所でもひときわ緑色の蔦が絡まった先に、危うげに吊るされた姫君の姿が見えた。気を失っているのか、ぐったりとしている。こちらからは姫君の表情は見えない。
足はつま先を伸ばしても、地面にはギリギリ届かない絶妙な高さ。しなやかな植物のつるが、姫君の手首を縛り上げていた。縛られ吊るされているせいで、色白の肌が擦れ赤くうっ血してしまっている。それがなぜか嗜虐心をそそるありさまだ。
姫君はワイシャツのように薄い生地の打掛を身につけている。けれど雨にでもふられたかのように、何かしっとりとした液体に体全体が塗りたくられているせいで、打掛の下の素肌は生地から透けてみえてしまう。
肌を隠してくれるはずの打掛のせいで、余計に姫君の柔らかそうな裸体はその存在が強調されてしまっていた。肌の上で弾かれる液体が、若く美しい姫君の肌のみずみずしさを教えてくれる。
かさかさと、草木をかき分けて歩いてくる音がする。ハイエルフ様だ。ただし今の彼からは、穏やかそうな雰囲気は感じられず、冴え冴えとした美貌を誇っていた。隣を見ると、元精霊王は顔を手のひらでおおっている。けれどうっすらと指の間から見えているようで、カイル王子は若干前かがみ気味だ。頑張れ、男子高生!
ハイエルフ様はゆっくりと姫君の髪をすき、その一房をすくい上げると愛おしむように口づける。ふっとこぼれるように微笑むと、姫君の白い首をちろちろと舐め上げる。そのまま首筋をきつく吸い上げ、赤い花びらをいくつも散らした。
これが所有印というやつか! キスマークといえば、口紅がシャツにつくタイプのものしか知らない私には刺激が強すぎます。ひとしきり姫君を愛でると、姫君を起こすつもりか、深い口づけを繰り返し始めた。鬼やな、このエルフ。
「世界の愛し子、そなたもわかっただろう。ヒトがどういう生き物なのか。強欲に富を追い求める。不要な殺生を繰り返し、大地を汚す。これほどまで北の国が雪に閉ざされ、過酷な土地へ変わったのも、積み重なった罪深さゆえ。領地を拡大しても、すぐに不毛の地へと変わる。何と業が深いことよ。」
その言葉に姫君のまぶたが、うっすらとひらく。
「……め…。や……て……」
うわ言のようにか細い声で何かを繰り返す姫君のことを、聞きわけのない子どもを見るかのようにみやる。
いきなりその細く白い首筋に軽く歯を立て、またすぐさま優しくその噛み跡を舐め回した。その度に姫君は、ふるふると何かに耐えるように目をきつくつぶる。
「まだわからなぬか。愚かな。ヒトを駆逐して、大地を清浄に戻すことの何に不満がある。ヒトが消えれば、そなたがこれ以上悲しむこともない。森も動物たちも、精霊だって傷つかずに済むというのに」
ゆらゆらと、くらげのように白く柔らかそうな植物が、何本も姫君を取り囲む。よく見ると植物の先端からは、じっとりと蜜があふれている。
姫君は植物の姿を見ると、イヤイヤと身体をよじる。それが何か、姫君は身をもって知っているらしい。けれど、もちろん逃げることも叶わない。触手のようにうねうねと自由に動く不思議な植物は、姫君の打掛をするりとはだけさせると、柔らかな肌をそっとなぞり始めた。
「さあお仕置きの時間だ」
食虫植物ならぬ触手植物たちは、姫君の全身を緩やかに締め付けていく。打掛を着ていても、あれほど全身に絡みつかれてしまっては、体の凹凸はむしろ強調されてしまうだけだ。
姫君の口の端からこぼれ落ちるのは、植物の蜜か、それとも……。まるで至上の美酒でもあるかのように、うっとりとハイエルフ様はとろりとしたそれを舐め上げる。
姫君が身体を震えさせるのを見てあたしは確信する。このネットリ変態ハイエルフ様は、きっと姫君がおねだりするまで放置するつもりなのだ。気が狂う直前まで焦らすつもりなんだろう。さすがハイエルフ、寿命が長い種族は気も長いのか。
あたしはため息をひとつ着くと、がちがちに固まった可哀想なカイル王子の肩を叩き帰路に着く。カイル王子の名誉のために、鼻血が出ていたことだけはみんなに黙っていてあげよう。