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25.方向音痴なあたしと庭師なエルフ 前編

 今回視たシンシアさんの未来から、いろいろ仮説が立てられるということで、あたしとカイル王子、そしてシンシアさんの三人で今後のことも含めた話し合いをすることになった。いや、あたしとしてはどこか部屋を借りてもうゆっくり休ませてほしかったんだけど。姫君に使者を追い返してもらっているわけだし、自分からは厚かましくて頼めませんわ。


 実はこのお話し合いはシンシアさんが提案したことだ。こんな状況を引き起こしたカイル王子は、あのバッドエンドな未来を視た後、さっさとこの部屋を退出しようとしてシンシアさんにとっつかまっていた。何をそんなに焦っているの?


 ちなみにもふもふたちは、あたしとカイル王子がずっと目をつぶっているもんだから、お昼寝でもしていると思ったんだろうか。四匹ともすうすう眠っている。か、可愛い。あんなエロい世界で姫君があんあん鳴いているのを視てきたせいか、すぴすぴ鼻を鳴らしながら丸くなって眠るもふもふたちに心癒されます。


 姫君のあられもない姿は、女子が視てもエロ過ぎて、あたしが万一男子だったら鼻血を噴いてもおかしくない。シンシアさんも相当なテクニシャンのようだったし、今後の対応に困るわ……。あんなのを何回も視て、平然としているカイル王子、鋼鉄の理性をお持ちなんですね。


「いきなりあんな未来を魔女殿にお視せて、自分は優雅に外出とはいただけませんわ」


 先ほど姫君を優しく愛撫していた白魚のようなほっそりとした手が、カイル王子の首根っこをつかんでいた。


 体をドアの外に半分まで出していたカイル王子は、そのまま引きずられてソファの上にふわりと放り投げられる。シンシアさん、さっきカイル王子に引き倒されていたのは、もしや幻だったのかと思える勢いです。これは大概困ったような顔で受け流していたシンシアさんが相当怒ってるね!


 この様子だと、バッドエンドな未来の内容をシンシアさんは知ってるなあ。おそらくだけど、カイル王子が聞かれもしないのに話している可能性が高いな。理由はありません。強いて言えば、勘だな。


 いくら姫君が信用している相手とはいえ、いきなり他人に自分と姫君のエッチを視られたら怒るだろう。いやまあ信頼関係があっても、それこそ友人だろうが、親兄弟だろうが、イヤ過ぎる展開だとは思うのですが。


 もともそカイル王子が、ペラペラあんな内容を本人に話すから悪いんだけど。まあ自業自得ってやつです。確かに、元精霊王なカイル王子傍若無人気味な性格から考えて、妖精女王がその内容を知らないことの方がおかしい。この短時間で判断させてもらって悪いけど、まだ起きていない未来の出来事の件で、八つ当たりしてくるような男だ、カイル王子って奴は。


 それにしてもカイル王子、今から外出するの? はっきりとした時刻はわからないけれど、アフタヌーンティー開始から結構な時間が経っているはずだ。冬ということもあって、外を見るとだいぶ薄暗くなってきている。


 こんな時間から王子様ともあろうお方が外にお出かけ? こちらの世界にはカラオケなんてないだろうし……。王子様が大衆居酒屋なんて行かないだろうし、それ以外のこんな時間から開いているお店といえば……。


「シンシアさんや庭師さんと違って、姫君に信用されてない……ってかちょっと避けられていますよね? もしかしてカイル王子、欲求不満を持て余して、花街の女性に手を出しまくってるんじゃないの? しかも姫君似の黒髪でナイスバディーの高級遊女がお気に入りだったりとかして」


 あてずっぽうでカマをかけてみると、カイル王子はどうやら図星だったらしい。うっと言葉に詰まったきり、押し黙ってしまった。


 まあね、わかるよ! 江戸時代でもそうだったけれど、花街に行くのは男のたしなみという時代もあったのだ。きっとAVなんてものもないこの世界で、特に身分の高い男性にとっては、花街なんて当たり前くらいの感覚なんだろう。


 それにカイル王子も元精霊王な精神年齢はともかく、肉体はピチピチの十代。青春真っ只中の悩ましいお年頃だ。愛する女性の悩ましい姿を見て、賢者でいろというのがどだい無理な話だ。


 でもねえ、女性としていわせてもらえば、彼氏が風俗に行くのは絶対イヤ。ちなみにあたしは、彼氏がおっパブに行った件でケンカした経験があります。姫君とカイル王子は恋人ではないとはいえ、婚姻の可能性が非常に高かった間柄だ。そんな相手が花街の高級遊女と浮名を流す。相手はどうやら自分と雰囲気が似ているらしいとくれば、未婚の女性は苦痛なはず。


 姫君の幸せを願う→姫君の未来を視る→いたいけな姫君の姿を視る→ムラムラする→花街で姫君似の遊女を抱く→姫君に嫌われる


 うん、この残念っぷり。せめて右手で我慢していれば良かったものを……。

 カイル王子は、そんな、生殺しだ、リーファを襲ってしまう! 外に出してくれと青ざめていたけど、それは仕方ない。我慢してください。決して、あたしが無理矢理未来を視せられて、怒って仕返ししているわけじゃないよ。たぶん。


 カイル王子を叱りつけるシンシアさんは、心から姫君を思いやるよくできたメイドにしか見えない。でも本人も認めていたし、妖精女王なんだよねえ。女王がメイドになるくらい魅力的な姫君ってすごいね。


 今のところシンシアさんが姫君に対して抱いているのが、親愛や友愛を超えた愛情なのかあたしには確かめる術はない。周りの男がどうしようもないとかいうときに、シンシアさんのイベントって発生するのかな?

 まさか友情を深めすぎると、愛情に転化するとかないよね……?


 往生際の悪いカイル王子に業を煮やしたのか、シンシアさんが悪い顔でにやりと笑った。


「カイル王子のおかげで、姫君の新しい未来の可能性も垣間見ることができましたし、いい機会です。もう少し可能性を探ってみましょう」


 片手を上げ、高らかに指を打ち鳴らす。

 シンシアさんに呼ばれたのだろう、色とりどりの、片手に乗る小さな手乗りサイズの妖精たちがえっちらおっちら何かを吊り下げてくる。


 コンコンと窓をノックするので、おっかなびっくり窓を開けてやると、強風とともにどさりと何かが投げ込まれた。よく見ると、ドナドナされてきたのは、先ほど窓の外で見た庭師なイケメンエルフ。


 これまたいい笑顔で、シンシアさんがあたしとカイル王子を見ながら両手をわきわき準備運動させている。

 えええ、やだよ、また姫君のバッドエンドを見なくちゃ行けないの? こんな穏やかそうな人が、姫君にあんなことやこんなことしてるの、視たくないんですけど……。


 シンシアさん、自分だけが恥ずかしい思いしたからって私怨入ってませんよね?

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