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24.方向音痴なあたしとメイドな妖精女王 後編

注意:若干ですが、ガールズラブ&性的な表現が入ります。苦手な方は読み飛ばしてください。



「俺のことを完全無視とはいい度胸だな」


 もう、カイル王子ったらうるさいな。

 あなたの相手は後からゆっくりとしてあげるから、もう少しおとなしくしていてくださいな。


「あたしが行ったのは、どうやらカイル王子が視た未来とは別物のようです。そこでは確かに東の国は滅んでいましたが、姫君は決して不幸ではありませんでした。姫君によく似た女の子も産まれていましたし、姫君はもっとお子さんを望んでいました。そうシンシアさん、あなたを選んで幸せだと口にしていた姫君は、とても綺麗でした」


 あたしが視た未来は、カイル王子が言う最悪な未来なんかじゃなかった。どこをどう間違ったのか、図らずもより良い未来を視ることに成功したらしい。


 どういう経緯かシンシアさんは男性に変化していたが、まあ妖精族にはいろいろあるのかもしれない。しかも妖精女王ときたら、秘法の一つや二つ知っていてもいいでしょう。もしくは雌雄一体型の種族かもしれないし。まあ、国と仲間を捨てたとか、空を飛べなくなったとか言ってたからかなり捨て身の方法なんだろうけど……。


「異なる未来に着いたとは、どういうことだ!」


「さあわかりません。気づいたら、そういう未来の中にいたんです」


 たんたんと答えるあたしに、カイル王子は焦ったような表情で怒鳴る。


「そんな馬鹿な? 俺の視た未来には、そんな未来はなかった! ロクでもない世界ばかりだったっていうのに、おまえは自分の視た世界を美しかったとまでいう。本当に、嘘じゃないんだな? 過酷な未来を視せられて、すでに気が狂ったというわけでもないようだが……」


「気が狂うなんて、失礼な……。ご自分がおっしゃっていたじゃないですか、あたしの存在はジョーカーのようなものだと。希望通り、姫君の未来が良い方向に進んだ未来が視れたというのに、何が不満なんです」


 あたしの疑問に、カイル王子はギリっと唇をかむ。悔しそうな表情で、それでも何か言わずにはおれなかったのだろう。あたしをにらみつける。


「一体どんな手を使った?」


 しつこい王子だな! そんなに自分の視た未来と違うことが納得いかないんかい。

 

 カイル王子は、魔女の予言は必ず通る道とは言っていた。自分の力は最悪な未来を知る手段だとも。でも、その力を不本意ながら貰い受けたからと言ってあたしが最悪の未来への道を歩くとは限らないじゃないか。別にカイル王子に道案内してもらったわけでもあるまいし。……ん、道案内?


 あたしは自分の中で、どうしてカイル王子が視た未来と異なる未来へたどり着いたのかわかった気がした。

 つまり、あれだ。極度の方向音痴だから、最悪な未来へ進まずに、ベストだかベターだか知らないがとりあえずハッピーと言える未来に進んだわけだ。


 あたしの説明を聞くなり、カイル王子はにやりと凶悪な笑みを浮かべた。


「つまり、道案内がいれば良いんだな?」


 これは、今回こそバッドエンドな未来へGOなパターンですよね?

 またもやまばゆい光に包まれる。前回と違うことは、どうやったのか隣にカイル王子が一緒にいることだ。

 光のせいでどんな顔をしているかわからないけど、まさか姫君が不幸になるのをこっそり喜んでいるわけじゃないよね?


 足元がふわふわの何かに埋まる感覚に気がついた。

 前回はお花畑だったけれど、今回は室内みたい。上等な毛の長いカーペットの上かな。薄暗くてよくわかんないけど……。


 部屋には濃密な甘い香りが漂っている。この香り、かいだことあるなあ。何だっけ? 雑貨屋さんでお試しさせてもらった精油のイランイランだ!


 お気に入りのラベンダーが切れちゃったから、補充しに行った時にパッケージに惹かれてお試ししちゃったんだよね。だって、官能的な香りとかさ、夜の女王とか言われたら気になるでしょう? 別にあたしが特別エッチというわけではないはずです。


 寝室なのかな? 目の前には天蓋付きのいわゆるお姫様ベッドがある。あたしが移動しようとすると、カイル王子はあっさりと手を離してくれた。どうやら、同じ未来へ来てしまえば、その世界で一緒に行動する必要はないみたい。


 そのまま手慣れた様子で、後ろに下がり、鏡台にどっかりと腰掛けた。そんなところに迷いもなく座るとは、さては何回もこの世界に来ているな! カイル王子は疲れたように目をつぶると、しっしとあたしを追い払う。道案内をしただけで、自分は一緒に視るつもりはないようだ。


 なんだよ、最悪とか言われてるから、めっちゃ怖いんですけど……。ベッドの影から、いきなりゾンビとか出てこないよね? その場合、もれなく漏らす自信があります。

 ゆっくりとベッドの方へ進んでいく。それにしてもこのベッド、無駄にでかいな。シングルベッド二つ分で、キングサイズっていうんだったと思うんだけど、それより大きいってどういうこと?


 ふと女性のすすり泣きが聞こえた。慌ててカイル王子を振り返ると、思い切り耳をふさいでいる。あんにゃろめ。それでもあたしをこの世界に置いて帰らないのは、ちゃんとこの世界での未来をあたしに確認して欲しいからなんだろう。

 仕方なく声がする方へ近づくと、そこにはベッドの上で切なげな表情で涙を流す乱れた姫君がいた。


 ベッドの四隅から伸びる柔らかそうなしなやかな赤いリボンで、姫君の四肢がきっちりと固定されている。

 姫君が見につけているのは、透け透けの赤のベビードール。しかも、大事な部分は上も下も覆われていないという代物。色白の姫君の肌が桜色に染まっていて、それはそれはとても淫靡な光景だった。


 正直言って、裸よりエロいと思います。これが着エロか!


 うっとりとした眼差しで見つめるその先には、妖しげに微笑むシンシアさんがいる。先ほど見たメイド服ではなく、あくまで妖精女王という名に相応しいいかめしいドレス姿だ。裸に近い姫君とは対照的に、きっちりと首まで覆われたドレスを身につけているのが逆にいやらしさを増している。


「わたしの愛しい姫君。どうかこの愚か者に、愛の言葉をお恵みください。あなたのしもべに、お戯れで構いません。どうかこのどうしようもない痴れ者にお情けを」


 愛している……そう言おうとしたのだろう、姫君の口が開きかけたのを、シンシアさんは自分の唇でふさいだ。姫君は、その口づけを拒むことなく受け入れる。


 まるで口の中すべてを味わい尽くすように、角度を変えながら二人はじっくりと互いを求め続ける。ふっと唇を離してみれば、まるで名残惜しいとでもいうかのように、姫君がいやいやと首を振った。


「いいえ、いいえ……。良いのです、そんな偽りなど口にしなくても。わたしがあなたをさらい、あなたはわたしに無理矢理体を開かれた。子を成すことなく、ただ欲望のままに、己の快楽を求めるわたしのせいで! それだけが事実。あなたの心など、どうやっても手に入ることもないのに……。お許しください。いいえ! 許していただかなくとも構いません。むしろ、どの口でそんなことが言えましょう」


 シンシアさんが姫君にそっと口付ける。黒髪に、桃色の目尻に、白い首筋に。その口づけが、あたかも「愛している」と、そう聞こえてならないのは気のせいだろうか。

 言葉の激しさとは真逆の、そっと優しく、まるでガラス細工でも扱うように繊細な口づけ。


「あなたの故郷を滅ぼした北の国は、もうすぐ滅びるでしょう。妖精族は、あなた方人間が思うほど、ふわふわしたおとぎ話のような心優しい生き物ではありません」


 姫君のまなじりから涙があふれ出した。その涙は快楽ゆえか、それともシンシアさんの口から出てくる恐ろしい未来に対しての咎め立てなのか。


「忘れてしまいなさい。すべて。快楽の波に呑まれてしまえばいい。そしてどうかお願いです、今だけはわたしのことだけを見ていてください」


 酷いことをしているのはシンシアさんの方なのに、泣きそうな声で彼女は懇願する。そのまままた姫君に口付ける。柔らかな太ももに、ほっそりとした足首に、小さな真珠のような足の指の爪先に。

 後にはただ姫君の甘い声だけが聞こえていた。


 あたしは何も言えずに、カイル王子を振り返る。

 この人は、何度こんな場面を見てきたんだろう。


 確かに戦争が起きたようだけど、そんな場面は見えない。前に、カイル王子が不死身のなんちゃらがとか言ってたから、強大な力で人間の国を焼き尽くしているのかもしれない。けれどスプラッタではないからと言って、今の光景がマシかと言われたらそんなわけもなく……。


 自分の愛する人が、自分以外の人間と睦みあうのを視るのは、寝取られ属性でもない限り辛いもんだろう。男性にとっては、スプラッタの方がましかもしれないな。個人的に、今回のは愛ある陵辱みたいなのであたし的にはマシなパターンだと思えるんだけど……。

 ええ、花畑のキスシーンレベルでドキドキした小心者ですが、今回は異常事態過ぎてドキドキ通り越して逆に冷静ですよ。


 少しだけ、カイル王子に同情してしまった。未来の世界で誰かが姫君と睦みあっていても、今の現実の世界で相手を殴るわけにもいかない。もちろんそんな光景ばかりではないだろうけど、ひどい場面を目にすれば、相手への見方も変わる。


 けれど、それを今の現実の世界の人たちには理解してもらえない。未来を視れば視るほど孤独になるから、あんなふざけた雰囲気で生きるしかなかったのだとしたら、なんと孤独なことか。自分の力をあたしに譲ったのも、仲間が欲しかったのか、言葉通り只人になりたかったのか。


 まあこんなのが続いたら、むしゃくしゃして破壊衝動が生まれることもあるかもね。

 

 今後もこんなシーンを視ることになるとしたら、姫君とはちょっと顔を合わせにくいなあなんて考えながら、あたしは目を閉じた。

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