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19.方向音痴なあたしと北の国の第二王子 前編

 ここまであたしは、この世界の種族と魔法について簡単に説明を受けた。

 次は、神殿やら王家の話が聞きたいけど、どちらを先にしてもらおう?


 まあどちらを選んでも、結局二つまとめて説明を受けることになりそうなんだけどね。

 今の日本は政教分離を掲げているけれど、中世ヨーロッパでは宗教と権力は密接にからみついていた。世界史のカノッサの屈辱とか懐かしいわ。


 決局はどちらも一緒に話を聞く羽目になりそうな気もするけどね。

 ほんじゃ、とりあえず王家を選びますか。


「魔法の話は一旦置いておくとして……この大陸にある国々について教えてください」


 思考の海に沈んでいたらしい姫君は、はっと弾かれたようにあたしに目を向けた。

 ちなみにテーブルで遊んでいたもふもふたちは、シンシアさんに紅茶を注ぎ直してもらったときに、ついでに回収してもらいました。

 手のひらの中にいた白文鳥さんは、気づいたらポンコツの頭の上でした。あれ? いつの間に?


「すみません……。そうですね、どこまでお話ししたでしょうか? 世界がこのティースタンドのようなものであるという部分までは、確かお伝えしましたよね?」


 あたしはうなずく。


「この三段目のお皿が人間界ですが、お皿の上にはまず海がありました。そして神はちょうど出来立てのアップルパイのように、まるい陸地をお創りになったのです。そしてわたくしたち人間を創り、四大精霊になぞらえて国土を均等に四当分になさいました。」


 へええ、この人間界では、とりあえず四つの国しかないってことになってるのね。

 もしかしたら、海の先に別の国やそれこそいわゆる新大陸があるのかもしれないけど、まあそれは置いておこう。


 この国が北の国、姫君の生まれた国が東の国。とすれば、残りは南の国に西の国。

 どうやら神様は、大陸をアップルパイのごとく四つに分けたらしい。

 環境が異なる土地を均等に四当分ってできるんだろうか?


 例えば、この北の国。薔薇園までちょっと歩いただけで、顔は痛いし、咳き込むほどの寒さだった。手や耳も凍ってしまいそうで、経験上、氷点下二十度を下回っていると思う。


 あたしはそんな国にちょっと住んだことがあるけれど、春から秋までが極端に短くて、気が遠くなるくらい冬が長った。


 しかも冬にデジカメ持って外をうろついたら、速攻でデジカメが壊れたからね。まあその分夏は木陰で昼寝ができそうなくらい気持ちよかったけれどさ。

 暖房技術が中世並みと思われるこの国で、そんな冬を簡単に越せるとは思えない。


「その四分割でうまくいったの?」


「いいえ。北の国の王とその民が神に直訴したと聞いております」


 やっぱり。そりゃそうだろうね。あたしだって、そうするわ。


 神様から見れば、人間がなぜか文句を言い始めたように見えたのかもしれない。

 あたかも、あっちのアップルパイの方が大きいと駄々をこねる子どものように。


 けれど分けられたアップルパイに、ばらつきがあったら?

 同じ両親からもらったアップルパイ。兄弟たちのアップルパイには、リンゴがたっぷり入っているのに、自分には全然入っていない。

 あっちはこんがりきつね色なのに、自分のは半生だったり黒焦げだったり……。

 おいしくないし、ちっともお腹は膨れない。


 あたしは思わず、自分の家族のことを思い出して舌打ちしたくなる。

 家族だからなんでも許されるわけではない。自分が大切にされていないと感じたら、他人よりずっと憎しみを覚えるということをあたしは知っている。


「神様はどうしたの? 受け入れてくれた?」


 姫君は言いにくそうに、首を振り、窓の外を指差した。


「北の国から他の国が見えるから羨ましくなるのだと、北の国と他国との間に険しい山をお創りになりました」


 何やってるのよ、神様は!

 結構神様って残酷だと常々思ってたけれど、この世界の神様も大概だな!


 お母さんが子どもに言う、「よそはよそ、うちはうちでしょ!」ってやつか。

 でもこの場合、よそじゃなくて兄弟だしな。

 どっちかっていうと、「おねえちゃんでしょ! 我慢しなさい!」って感じかな。……最悪やわ。


「もちろん北の国はそれで納得するわけないよね?」


「はい。神への直訴がこのような結果となり、北の国の不満は神ではなく、他国に向きました」


 北の国の不満は増すばかりだった。一つの大陸を均等に四当分など不平等ではないか?

 北の国は他の国々と違って冬は雪に閉ざされる。あたしの予想通りなら、港だって凍って使えなくなるはずだ。


 びっくりするよ、あんまり寒いと海まで凍るんだよ! 波の形で凍ってたりする場所もあって、それを初めて見たときは写真を撮りまくったっけ。

 しかも神罰として、北の国の周りは険しい山が創られ、陸上の移動もままならない。だったら次に何が起こるか。答えは簡単だ。


「北の国は他国に攻め込んだ」


 姫君は黙ってうなずいた。

 神様に頼んでもダメなら、自分たちでどうにかするしかない。

 戦争に至るまでに、北の国と他の国はどんな話をしたのだろう。


 他国からすれば神罰まで受け、雪に閉ざされた北の国。王家同士の積極的な婚姻もなかったかもしれないし、そうであれば交流も生まれにくいはず。

 現状を変えるには、武力行使しかなかったわけか。


「北の国は他国、特にわたくしが生まれた東の国から、長年にわたって多くの物を奪い取ってきました。故郷を守るために人質としてこの国へ嫁いだ女性も少なくありません。国土の半分以上も北の国のものとなりましたが、今でも北の国と東の国との国境は緊張状態です。」


 うん、重い、重たすぎる。

 こんな状況で、姫君の予言が出てきちゃったわけだ。

 長年にわたって苦しめられてきた東の国からしてみれば、北の国を手中に収めることができるような予言があったら、張り切っちゃうよね。


 国家運営に悩む東の国の王様も、まだ幼い娘の気持ちも考えずに大フィーバーしちゃっても仕方ないよねって思うか、ボケ!

 そりゃあ予言の魔女も予言を公開発表することを渋るわ。


 あれ、そうすると、今の姫君の状況って単なる軟禁じゃなくて保護してるって見方もできるよね? 下手すりゃ誘拐やら拷問やら薬物で、結婚を無理強いされる可能性だってあるわけだし……。予言を被害が少ない形に改竄して自国に流布するなんて……。もしかして、今代の北の国の王って、東の国の王よりマトモだったりして。


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