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18.方向音痴なあたしともふもふな精霊たち 後編

「いつ頃魔法が使えないとお気づきになられたのですか?」


 あたしの問いかけに、姫君は悲しそうに答える。


「魔法が使えないとはっきりわかったのは、予言を頂いた数えで七歳の神事の際でした。わたくしは、四大精霊のうちいずれも呼び出すことが叶わなかったのです」


 この世界の魔法は、四大精霊の助けを借りて発動させるらしい。

 呼び手の力に応じて、高位の精霊だったり声なき精霊、はっきり言わないけど、つまりは力の少ない低位の精霊が来てくれるのだろう。

 

 あたしは姫君に返事をせず、いまだポンコツの首を執拗に締め続ける白ヘビを見た。あ、ポンコツの首の色が変わってる。そろそろヤバイんじゃない?

 

 こんな近くに四大精霊の王がいるのに、姫君の呼びかけに応じないなんておかしいでしょう。

 他の高位の精霊が出てこないのは、このもふもふな王たちに遠慮してるからだとしても、王たちが姫君に姿を見せないのは疑問だ。


 姫君は少し苦い顔をして、遠くを見つめる。

 視線の先には、とうとう降り出したのだろう、雪が風にあおられて窓に叩きつけられている。


「誕生日の前日に庭園の水路に落ちて高熱も出していたので、力が十分に発揮できなかったのではと慰めてもらいましたが、決局その後も精霊は呼び出せないままです」


 わたくしもなぜそんなことになったのか、まったく記憶にないのですが、と姫君はつぶやいた。何かを見たような気がするのにと。


「あのひも ゆきが ふってたの。ずっと みていた ひめと おしゃべりできるって、たのしみだったの」


 うっとりと手の中で目をつぶっていた白文鳥が、急に話し出す。

 その声につられるように、子トラと子おおかみが追いかけっこをやめ、テーブルの上にぴょんととびのった。

 危ない! と思ったけれど、不思議なことにティーカップの中の紅茶はまったくこぼれる気配がなかった。

 恐るべし精霊マジック。


「ひめに あいにいったの! ようやく うつわに ちからが なじんだから!」


 子トラはちょっとティーカップの中身が気になるのか、ふんふん匂いを嗅ぎながら言う。

 おお、やっぱりネコ科だけあってテーブルの上に乗るの好きなのね。

 紅茶にはカフェイン入ってるから、君たちは飲んじゃダメだよ。


「あいさつしたら すっごく よろこんでくれて、おれ、うれしかった! でも、みずのが ひめを なかせちゃったから、いまも ずっと ひめに あえないまま」


 子おおかみは、すきあらばスコーンを頂くつもりなのか、ティースタンドの前をうろうろしている。

 その下のサンドイッチには玉ねぎが入っていたよ。君たち、そういうのも食べちゃダメだぞ。

 ってか、君さらりと子ヘビにひどいこと言ってるよ。大丈夫かな?


「だって しらなかったんだ! ひめが へび きらいなんて! ぼくだって かなしかった!」


 あああ、ほら泣いちゃった。やっぱり見た目通り精神年齢も幼いらしい。

 爬虫類は苦手なあたしだけど、目の前で小さい子が泣いてるはやっぱり辛い。これでもあたしは、転職を視野に入れて、つい最近保育士資格も取っていたりする。子どもは嫌いではない。


 子ヘビはようやくポンコツの首から離れたと思ったら、シンシアさんの足元にするすると逃げ出した。ポンコツ、お疲れ。


 その後ももふもふたちは、ああだこうだと説明してくれる。子どもらしく語彙が少ない上に、かなり断片的なので、話をつなげるのに苦労する。

 その上で、姫君ともふもふたちの話を総合すると、こういうことらしい。


 お呼び出しがかかる前から姫君のことを知っていた彼らは、事前にちょいちょい遊びに行っていたそうだ。

 もちろん姿は見せず、今のように姫君の周りでわふわふしていたに違いない。


 ようやく精霊の王としての力が前王からもらった新しい器に十分に馴染んで、実態が取れるようになったので、喜び勇んで姫君に会いにでかけた。

 白文鳥が肩にとまり、姫君が喜んだ。

 白おおかみとホワイタイガーが姫君の足元にじゃれつき、上機嫌の姫君が二匹のもふもふを腕に抱きかかえる。

 小鳥ともふもふと美少女、それはそれは絵画のように美しい光景だったに違いない。


 そこに、満を持して白いヘビが現れた。

 しかも空中から首筋にぽとりと落ちて。首筋にひんやりと冷たい感触。不思議に思う姫君の顔面数センチのところに、白ヘビがこんにちはしたわけだ。


 うん、ホラーだね。

 爬虫類嫌いなら卒倒ものだ。


 案の定姫君は絶叫した挙句パニックに陥った。

 叫びながら両手をバタバタさせてドレスの裾を踏み、庭園に作られていた水路に落っこちた。しかも間の悪いことに季節は冬。姫君は高熱をだし、この出来事は記憶の彼方に葬りさられた。


 誕生日の際に呼び出しに応じなかったのは、また拒絶されるのが怖い子ヘビが拒んだから。他の火の精霊、大地の精霊、風の精霊だけで呼び出しに応じることもできたけど、仲間を残していくことを良しとしなかったってことか。

 王様が行きたいのに行かないってんじゃ、残りの精霊たちも出るに出れないで今に至るってわけね。


 おい、だから誰かちゃんとこいつらをしつけなさい!

 シンシアさんもポンコツ龍も、あたしから目をそらさない!


「どうせ、ぼくは きらわれものなんだ。みんな ばっかり かわいがられて ずるいよ」


 真っ白な子ヘビが、シンシアさんの胸元でうるうると瞳をにじませる。

 まあ確かに爬虫類が苦手っていう人は多いと思う。逆に小鳥や犬猫が嫌いという人は少ないだろうし、姫君はごく普通の女の子だったんだ。仕方ないよ。まあおおかみとトラを犬猫扱いするのもどうかと思うが、イヌ科、ネコ科としては間違ってないよね?


 子ヘビもさあ、もっと女子受けする生き物の姿になればよかったのに。


「ぼくだって、かわいい いきものに なりたかった! でも まえの おうさまから もらった うつわには、へびや かえるしか なかったんだもの! まえの おうさま、へびは つよくて かっこいいって いってたもの!」


 力と器が馴染んでしまった今となっては、もう器を変えることもできないのかな?

 前王ももうちょっと気を利かせて欲しかったよ。確かに男性は爬虫類とか両生類もカッコいいと思う人も多いのかもしれないけど……。爬虫類好きな女子は少数派だろう。


 前王のことを気が利かないと言ってみたものの、自分が器を考えるとなるとこれが結構難しい。

 確かに水辺の生き物と言われると、魚や両生類、爬虫類しか浮かばない。

 魚を器に選んだら、やっぱり陸上では干からびるんだろうか?


 仮にそうだとしたら、可愛い系の海の生き物、イルカやクジラやラッコ、アザラシ、まあそもそもこの世界にいるかは不明な生き物だけど、こういうのは選択できないよね。あの子らも水は必要不可欠だ。


 じゃあ、シロクマとかコツメカワウソとかはどうだったんだろう? 器に用意されてなかったということは、やっぱりこの世界にはいないのかな。


 この小さく震える水の精霊王を説得できれば、姫君の魔法コンプレックスも一気に回復するんだけどなあ。


 姫君が精霊王の力を使えると知れば、この国での姫君の立場はもう少し良くなる? それとも予言とあいまって、より疎まれるだけ?


 姫君の自信を取り戻すのも、精霊王たちをしつけるのも、予言に見合う恋のお相手を探すのもどうやら先は長そうだった。


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