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17.方向音痴なあたしともふもふな精霊たち 中編

「……離宮に何かあれば、俺が見逃さない」


 ぼそりと、低い声で龍なあいつがつぶやく。

 姫君が、警備を疑って気分を悪くさせたかと慌てる姿を見て、こいつはむすっとした表情で黙り込む。

 使用人には頭を下げないのが普通な世の中だろうに、律儀だなあ。こんな敵地で人質の身分なのについてきてくれた彼らのことを、姫君は本当に大切にしてるんだね。


 それにしても、問題はポンコツ龍よね。要はあれでしょ、俺が守ってるから心配するなって言いたいんでしょ? もっと気の利いたセリフくらい言ってみなさいよ。まったくこれだから口下手ヘタレは……。


 ポンコツ龍が気にくわないのか、鎧をつけていない手の甲の部分をホワイトタイガーと白いおおかみがわふわふ噛み付いている。

 まだ赤ちゃんだから痛くないのかなあ? ポンコツは無表情だし、両手にぬいぐるみみたいなやつらが、がうがう言いながらぶら下がっているし、すっごくシュールです。


 あっ、こっそり子ヘビが龍の首を絞めてる。けっこう首絞まってるよ。あいつ龍なのに子ヘビなんかに負けていいの?


「あのこは みずの せいれいおうだもん、りゅうより つよいのよ?」


 また肩で、白文鳥が解説してくれた。

 よくわからないけど、やっぱり王と名が付くだけあって、そこらの龍より強いらしい。

 ダメだろ、こんな年端もいかない子どもに強力な力を与えちゃ。

 誰だよ、こういう風にしたやつ。


 うにゅうにゅっと、いちご大福が縦長に細くなった。伸びをしてすっきりしたのか、あたしの首に頭をスリスリしてくれる。

 警戒心が強い文鳥ちゃんも多い中、至福です。いやまあこの子も風の精霊だか何だかの王様なんだろうけどさ。


「あたしは かぜのおう」

 

 やっぱりな答えを返してくれる。

 さらに、もふもふおおかみを大地の精霊の王だと桃色のくちばしで指し示してくれる。

 ほんじゃ残りの子トラが、火の精霊の王ってことね。


 ちなみに子トラと子おおかみは、がぶがぶ噛んで気が済んだのか、ポンコツの足の間で追いかけっこをしている。

 よく見ると、噛まれていた両手は、ほんのり真珠色に染まっていて、うっすら鱗のようなものも見えていた。ちびっ子とはいえ、王様に噛まれたらやっぱり痛いよねえ。ご愁傷さまです。

 子ヘビはまだ首絞めてるから、いっそそのまま新しいアクセサリーとしてつけとけばいいんじゃないかな?


 疑問もふえたことだし、話を進めてもらおう。


「精霊の王や精霊たちは普段どちらにいらっしゃるのですか?」


 あたしの疑問に、精霊の王とやらが一斉にぴょんぴょこジャンプし始める。


「おれ、ここ、このいえ!」

「わたし、ひめと いっしょ。ひめの いるとこが おうち!」

「……ぼくは」

「ひめは、おれと すむの!」

「なによお、わたしと すむのよ」


 子おおかみ、子トラ、子ヘビの順に答えが返ってくるけれど、子ヘビが言い終わる前に二匹の会話がさらにかぶってくる。子ヘビ、あわれなり。


「おれのなかま、いっぱいいるぞ! よぶか? よぶのか?」


 テンション高く、子おおかみはぐるぐるその場で回りながらあたしに聞いてくる。

 火の精霊が勢いを持てば暖炉の火が燃え盛りそうだし、風の精霊が勢いを持てば窓に叩きつける風が力を持ちそう。じゃあ、大地の精霊ってどうなるの? 何してくれるかわからないけど、ろくなことしなさそうな……。

 子おおかみは、あれだ、ばかわいい系か。

 

 シンシアさんはとちらりと見てみると、なんとも言えない表情ではしゃぐもふもたちを見ている。シュワイヤーは、完全に無視。我関せずで姫君の膝を堪能している。

 ちょっと中の界の方々、ちゃんと精霊の王たちをしつけしてもらわないと困りますけど!


 この場の光景が見えていない姫君は、のんびり答えてくれる。


「本来、精霊の王は中の界にお住まいになります。人間と意思疎通できるくらい高位の精霊精霊たちも中の界に、声もなき小さな精霊たちは人間界にというのが、もともとの住み分けのようですが、今はどうなっていることか……。精霊の王は二十年近く人間の前に姿をお見せになられておられませんし、高位の精霊と契約していても公にしないものもいます。もともと精霊の皆さまは、なんと言いますか、気まぐれな方が多いので……」


 うん、わかるよ。気まぐれっていうか多分何にも考えてないね。

 あたしの肩で休んでいた白文鳥が、にじりにじりと腕を移動しながらおしゃべりする。


「まえの おうさま、いなくなったの」

「あたしたちに ちからを くれたのも、おうさまの おしごと あきたからなんだって」


 そしてそのままあたしの左手の中にからだを潜り込ませる。これが噂の握り文鳥ってやつですか!


「ひめの おてての においがするう」


 ……ああ、さっき手を握ったからね。いいよ、どうせそんなことだろうと思ったよ。

 涙を飲んで、文鳥をさわれていることだけに意識を向ける。


 精霊の王という仕事を放り出してトンズラしたらしい前王のことはこの際置いておく。

 ああ、文鳥かわいい。これがペットセラピーってやつね。


 いいじゃない、ステータス最弱のあたしが、姫君も知らない秘密をガンガン教わってるんです。何であたしなのよ? 理が違う世界から来たってだけで、何で見えなくてもいいものが見えちゃうのよ。

 一介のOLには荷が重すぎます。ちょっと現実逃避させてください。

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