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16.方向音痴なあたしともふもふな精霊たち 前編

 よし、気を取り直そう。

 このままだと、どんどん中の界の方々の自己紹介に付き合うことになりそうだ。

 後で髭面のドワーフが出てきても驚かないように心の準備だけはしておこう。とりあえず、姫君には話を進めてもらわなくちゃ。


「なるほど。あたしのいた世界とはだいぶ違うみたいですね。あたしたちの世界は人間以外の知性を持つ存在はいない……ということになっています。もしかしたら隠れ里のような場所があるのかもしれませんが」


 はっきりいないと断言するより、こっちの方がいいだろう。その方が理の違う世界のイメージがつきやすいはず。下手に想像の生き物とか言うとややこしいし、それこそ神様が存在するのかどうかなんてあたしには答えられない。


「あたしの世界では魔法も基本的に使うことができません。その代わりに、誰でも魔法のようなことができるための道具が発達しています。こちらの世界ではどうでしょう?」


 地球が丸いとか宇宙がどうたらとかいう話をしても仕方ないし、聞きたいことはサクサク聞いていこう。

 種族以外で次にあたしの世界と違うことといえば、簡単に予想つくのが、魔法の存在。

 

 魔法を使うことができないと伝えたら、魔法の世界の国の住人だ。そんな世界は想像もできなかったのだろうか、姫君は、あたしが幼児レベルで歴史のレクチャーをお願いしたときよりも、比べものにならないほど瞳を大きく見開いていた。


 失敗したかなあ。確かにあたしは自己紹介で何もできないとは伝えたけど、このレベルで何もできないとは思わなかったかなあ。

 そんなに驚かれると、何だかごめんなさいって言いたくなるよ。まあ基本的にあたしのせいじゃないはずなんですが。


 心の中でそんなことを考えていたら、姫君は震える手であたしの手をしっかりと握りしめるとこう言った。


「異世界の魔女殿は、魔法をお使いになられないのですか?」


「使わないと言うより、使えません。あたしの世界は、魔法ではない誰にでも使うことのできる機械という道具が、生活を補っています」


 まああたしはただ道具を使うだけで、その道具がどんな風にできてるかなんてさっぱりわかりませんが。

 そう答えたあたしに、姫君は感極まったように、小さな声でつぶやいた。


「わたくしは魔法を発動させることができないのです。王家に連なるものにもかかわらず、魔法が使えないなんて……。四大精霊の王と言葉を交わした、東の国の始祖王の血がこの身に流れているとはとても思えません」


 どうやらこの反応を見るに、この世界では誰もが魔法を使えるようだ。まあそのレベルには色々差があるんだろうけど、王家の一族ならより強大な魔法も操れるってのがまあセオリーだよね。


「どんなに小さな子どもでも、声もなき小さな精霊の力を借りることで、ろうそくに火を灯すことくらいできるというのに。わたくしは……。」


 姫君が指先から炎を出そうとしているのか、人差し指を一心に見つめる。ふとあたしは、もこもこした何かがが、姫君の背中にへばりついているのに気づいた。

 姫君が集中して炎をだそうという呼吸に合わせて、もこもこはよいしょよいしょと肩まで登ってくる。

 ひょっこり肩越しに顔を出したのは、ぬいぐるみのようなホワイトタイガーだった。


 大きな前足を姫君の肩にあてて、くわっと口を開けると、小さなトラの周りに赤いキラキラとした粒子が集まってくる。

 あれ、もしかしてこの展開まずいんじゃない?

 あのキラキラが先ほど聞いた、声もなき小さな精霊たちなのだとしたら……。

 あれはどう見ても、指先に火が灯るレベルじゃない雰囲気がしますよ。


 一人でドキドキしていると、今度は天井から何かが落ちてきた。きらきらと青い光が空中に飛び散る。

 うまい具合に子トラの上に落ちたそいつは、子トラもろとも床の上に落ちる。青い光が赤い光を相殺してくれたみたいだ。


 床の上でバッタンバッタンしているのをよく見てみると、天井から落ちてきたのは小さな小さな白いヘビだった。ヘビはこんにちはをするように、あたしの方に鎌首を持ち上げ、するすると進んできた。

 ひいい、あたし、虫も爬虫類も両生類も全部ダメです、ごめんなさい!


 思わずガタリと立ち上がろうとすると、今度はあたしの足元からまたもや白いもふもふが現れた。

 これは犬……いや白いおおかみ!

 まるっこいもふもふおおかみは、がっしりとした前足で狙いを定めるとそのまま白いヘビをぺいっと片手で遠くに飛ばしてくれる。今度はきらきらとした黄色い光が飛び散った。


 神よ、感謝します! どんな神か知らんけど!

 思わず手を組むと、耳元で誰かがささやいた。


「ちがうよお。あたしたち、せいれいよ。すごいんだから」


 ビクッとしながらも恐る恐る振り返ると、あたしの左肩にはこれまた真っ白な文鳥がいた。

 かっ、可愛い! ピンク色のくちばしから、舌ったらずな女の子の声がする。首をかしげるとかすかに緑色の光が見える。


 インコやオウムが挨拶してくれるだけで嬉しいのに、言葉を話すのが難しい文鳥と会話ができるとか嬉しすぎる。

 白い文鳥は、ボフッといちご大福みたいに丸まった。どうやらあたしの肩でお休みいただけるようだ。ありがたやありがたや。


「先ほどから、どうかなされましたか? もしや何か良くないものでも離宮に入り込みましたか?」


 挙動不審なあたしに、姫君は集中力をなくしたのか不安そうに声をかけた。

 ごめんなさいね、変な心配かけちゃって。


 良くないといえば、まあ心臓に良くないものだよね。うん、可愛すぎる。もふもふ天国万歳! もとの世界では、大好きな猫たちにも相手にされなかったからね! 捨て猫の保護活動をしていた友人も、あたしの猫からの嫌われ具合にびっくりしてたよ!

 あたしはしれっと、シュワイヤーのせいにする。


「いえ、シュワイヤーがさっきから変なところを見ているのでちょっと気になって」


「確かに猫って何もないところを見つめていたりしますよね」


 優しい姫君は、あたしの話に乗ってくれる。なんていい人なんだ。

 非難めいたシュワイヤーの眼差しは無視して、姫君に向き直る。

 あたしの予想通りなら、姫君は魔法が使えないどころかとんでもない力の持ち主だ……。でも予想通りだと、逆に精霊の世界が心配かもしんない。王様がこんなんとかどうするの。


 姫君の足元で、はしゃいで取っ組み合いをしているもふもふたちを見ながら考える。一匹もふもふじゃないつるっとしたのもいるけど。


 本当に姫君は、人外にモテモテですね。

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