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15.方向音痴なあたしと銀色の猫 後編

 だめだ、この世界では当たり前に神様が出てくる……。それにしてもいきなり神殿の説明がきちゃったなあ。

 多分姫君は、今後の王宮と神殿への対応を見越して、早急に聖女の話をしたいんじゃないかな?

 ちょっと説明が先走り過ぎなんだよね。


 情報量が違う世界だから、この世界は地球のように丸いのかなんてことは聞けないけど、どんな世界観で生活しているのか確認しなきゃ。

 それがわからないと王や宗教の権力の大きさも想像できない。


 それにこの世界の成り立ちとして、神様がまず前提だっていうくらいだし、魔法だってある。この調子だと、人間じゃない種族もいるのかも。下手するととんでもない勘違いをしちゃいそう。話の腰を折って悪いけれど、ちょっと神話レベルからお願いしようっと。


「すみません、もっと細かいところから。たぶん、初めてこの世界の歴史を勉強する幼児くらいの感覚でお願いします」


 思ったより細かい部分から話をする必要があったせいか、姫君はしばらく考え込んだあと、不意に目の前のアフタヌーンティースタンドを指差した。


「わたくしは歴史の講師ではありませんから、あまり正確な説明はできませんが……。例えて言うならば、この世界は、ちょうどこのアフタヌーンティーセットのような構造をしています。このテーブルが混沌。神はその混沌からこの三段に分かれた世界をお創りになられました。ちょうどここ、一番上の皿に当たる天界に、この世界を創られた神である……がお住まいになられていると言われています」


 やっぱり今回も、神様の名前はあたしにききとれない。あたしの知る単語でうまく言い表せない名前なのか、聞き取る必要がないから翻訳されないのか、今の時点ではわからない。姫君はそんなあたしには気付かぬまま、説明を続ける。


「一番下のお皿がわたくしたち、人間が住む世界です。この皿の端……つまり世界の端がどのようになっているか、確かめたものはおりません。奈落が待っているとも言われておりますが……。神や中の界に住まわれる幻獣たちならば、その答えをご存知かもしれません」


 幻獣! またファンタジーだね! あたしの目が輝いていたのだろう。姫君は唇をあげて笑う。

 おおっとそんな何気ない仕草も色っぽい。やっぱりグラマラス美女の破壊力は半端ないです。


「残念ながら、わたくしは幻獣に出会ったことなどありません。そもそも人間界から中の界へ向かうことはできないのです。中の界に住まう方々が訪れてくださるのを待つしかありませんし、心の清らかなものとしか触れ合わないとも聞いております。聖女様や魔女殿の中には、ごくまれに主従契約を結んで頂いた例もあると聞きますが、何者にも縛られない幻獣たちが、わたくしどものためにわざわざ争いの多い土地に来られるとは思えません」


 幻獣はとても美しく、人型にもなれるそうですよなんて姫君は教えてくれる。

 姫君、ひざ! ひざ! 多分そこでぐうたらくつろいでるそのにゃんこ、そいつが幻獣!

 銀色の猫は、口をパクパクさせるあたしを、心底どうでもよさそうに横目でちらりとみると、また狸寝入りを決め込んだ。

 こいつめ……。猫のくせに狸寝入りなんて器用なやつ。


「他に、中の界には妖精族がいらっしゃるそうです。癒しの力に優れていて、その背にはとても美しい羽をもっているとか」


 癒しの力とかあったら、暗殺に怯える王族なんか助かるよなあなんて考えていたら、姫君の後ろで、メイドのシンシアさんがこっそりウインクをする。

 蝶のように薄く繊細な羽が一瞬現れ、次の瞬間にはもう姿を消していた。

 いるよ、姫君! 君のメイドさんは妖精族だよ!


「あとは、エルフの皆様ですね。中の界の中でも深き森の民と言われておりますし、争いごとを嫌う方々なので、戦争の絶えないわたくしども人間との交流は特にないのではないでしょうか」


 ふと窓の外をみると、背の高いイケメン庭師がこちらをちょうど見上げていた。金の髪とお揃いの金色の瞳が印象的。優しそうな雰囲気を持った男性。


 さすがイケメン、何を着ていても様になるね。庭師なのに女性をときめかせるとか只者じゃない。

 彼は笑って、髪をかきあげる。男性にしては長めの髪をあげると、そこにはあたしの耳とはちょっと違う形、つまりとがった耳が現れた。


「あの、姫君、外の庭師さん……」


「ああ、彼は本当に素晴らしい才能の持ち主なのです。まさに緑を育てる才能をもって生まれています。きっとエルフの皆様は、あんな風に森を守っていらっしゃるのでしょうね」


 いや、姫君、あんな風にっていうかエルフですやん、彼。

 人間嫌いとか言ってるけど、何してんのエルフ。

 しかも窓の外にいるのに耳良すぎ。何なの? これがエルフの力なの?


「龍の皆様も、中の界にいらっしゃるそうですよ。わたくしは絵画でしか知りませんが、空を駆けるそのお姿はきっと美しいのでしょうね」


 姫君はうっとりと頬を染める。

 ほほう、王子を見送った時の表情からは想像もできない、夢見る乙女そのものなそのお顔。

 普段からは想像もつかない仕草に、あたしは女ながらにドキドキしてしまう。やばい、おっさんに囲まれて仕事してたせいか、思考もおっさん化してるわ……。


 姫君がほんのり頬を染めて、龍への憧れを語った瞬間、部屋の扉に控えていた騎士が剣を取り落とす。

 えっ、そんなとこに控えてたんだ?! 気付かなかったなあ。

 黒光りする鎧とか目立ちそうなもんだけど。


 よくみると姫君と同じ黒髪の無表情イケメン、ほんのり顔が赤い? それにその瞳、何だか爬虫類みたいに黒目がやけに縦長な気が……。

 あたしの視線に気づいたのだろう、さっと剣を取りその表情も見えなくなる。


 せっかく姫君の印象いいのに、噂の龍も本物がこんなんだとポンコツもいいとこだわ。


 人間族には恵まれず悪役令嬢呼ばわりな姫君ですが、中の界の皆様からはモテモテのようです。

 姫君、いっそのことこの北の国の王は、中の界の皆様から選びませんか?

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