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ミーシャの幾ばくかの不安を他所に、一行を乗せた馬車は、王都の屋敷に着いた。


高級住宅地の一角にある大きな屋敷である。三階建ての建物があり、庭には薬草畑と訓練用のスペース、厩舎等がある。

屋敷一階のリビングにはミーシャが育てて刈り取った薬草が何種類か吊るして干してあった。

フェリやアマーリエ達、初めて訪れる面々が興味津々な様子で屋敷や庭の様子を眺めていた。

フェリがミーシャに話しかけた。



「結構広いんだな。普段は一人だろう?大変じゃないか?掃除とか」


「そうね。だから普段使うところしか掃除してないのよ。だから今、結構ドキドキしてるわ。三階とか最近全然掃除してないから見られたらヤバいわ」


「ははっ。じゃあ、そっちは見ないでおこうかな」


「そうしてくれるとありがたいわ」


「ミーシャ」


「なぁに?マルク様」


「置き薬はあるか?」


「あるわよ、私が作ったやつなら」


「なら、まだ時間があるようだし、軽く健康診断しようかと思うんだが、手伝ってくれないか?」


「いいけど……なんでまた?」


「ここ二週間はしゃぎっぱなしだし、将軍達もマーサに振り回されつつ、護衛で気を張り続けているだろうからな。そろそろ疲労が溜まりだす頃だろう」


「あぁ、なるほど」


「それに、その土地のものを食べるのは旅行の醍醐味かもしれないが、食べ慣れないものを食べると腹を壊しやすいからな」


「そうね。うちの将軍には行く前に餞別変わりに胃薬渡したもの」


「賢明だな」


「道具持ってくるわね」


「あぁ。頼む」



診療道具を取りに、一階の奥にあるミーシャの研究室に行った。




一般に、薬師と呼ばれる者達は、二つに分けることができる。


一つは薬草をただ調合するだけの薬師。

もう一つは、魔術を用いて調合する魔導薬師。


効果がより高いのは魔導薬師が作る薬であり、魔導薬師になるためには国家資格を取得せねばならない。


ミーシャは国家資格を有する魔導薬師であった。

そして、ミーシャが目指しているのは、既存の薬を調合するだけではなく、新たな薬を開発することができる研究者を兼ねた魔導薬師である。


兄弟皆、剣や弓を習っている関係でそれぞれ怪我をすることも多い。彼らの怪我を治してやりたい一心で、最初は医者を目指した。しかし、残念ながら生来の手先の不器用さから、医者を諦めざるを得なかったため、薬師へと方向を転向した。


手先が不器用で傷を縫ったり、とか、そういうことはできないが、人体に関する知識だけは学生時代は勿論、今でも必死に日々勉強しているため、それなりにあると自負している。

新薬の開発には、下手すると医者以上に人体に精通していなければならないためである。ミーシャは今、単純に薬師としての修業と研究者としての修業を両方しているようなものであった。






ーーーーーー


皆を一人ずつリビング横の個室に呼び出して、マルクと二人で健康診断を行った。皆、概ね問題がなかったが、若干胃が荒れている人もいたので、ミーシャが作った胃薬を処方した。


診察が終わってリビングに戻ると、ちょうど三女のナターシャが帰ってきていた。


13歳の彼女はまだ領地の学校に通っているが、今日は中級魔術師の資格試験が王都で行われたため、試験を受けるために昨日から王都へ来ていた。

アマーリエと大の仲良しのナターシャは、今回の旅行に一緒に行きたがっていたが、資格試験は年に一度しか行われないため、魔術師を目指す彼女は悩んだ末、試験の方を優先した。


それというのも、初級魔術書は誰でも読めるが、中・上級魔術書はプロテクトがかかっており、資格を持った者でしか読めないような仕組みになっているからだ。

どうしても読みたい本、覚えたい魔術理論がある彼女は、来年の今頃まで我慢して待つのは無理、ということらしい。

フェリ達にお願いしたら、各国に行こうと思えば行ける、ということもあるのだろう。



「おかえり、ナティ」


「ただいまー」


「試験はどうだった?」


「やるだけのことはやったわ。後は結果を待つのみよ」


「そう」



連日の追い込みで疲れがみえるが、それでも晴れ晴れとした顔で笑った。

ミーシャは労る気持ちで、ナターシャの母譲りの綺麗な黒髪を撫でた。







ーーーーーー


夕食は王都で今人気の高級店で食べた。人気というだけあって、どれも美味しく、皆、満足のようであった。


城に戻った後は、大人組は軽く酒を飲みつつ、話をしていたが、子供達は明日の予定を確認すると部屋に引き上げた。寝るには少し早い時間だったため、女の子だけで集まって、市場で買ったばかりの甘いものをつまみつつ、話をすることになった。



「ねぇ、アマーリエ。母様達、毎晩飲んでるの?」


「みたいよ。あと、風の国でも水の国でも、毎晩チェスしてたみたい」


「あぁ、母様好きだものね」


「水のお祖父様も風の叔父上も好きだから、毎晩盛り上がってたらしいわ」


「ふふっ。それはそれは」


「将軍達も皆好きみたい、チェスだけじゃなくてお酒も」


「あら。じゃあ、他の将軍達とも仲良くなったのね。母様、酒好きと仲良くなるのうまいから」


「そうなの!なんか、あっという間に仲良くなっちゃって、ちょっと驚いたわ」


「酒飲み同士通じるものがあったのね」


「かもね」


大きなベットに皆で並んで寝転がって、旅行の話や最近あったことなど、日付が変わる頃、自然と寝入るまで、話が尽きることはなかった。






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